ガバナー ゾアントロプス レーヴェ GOVERNOR ZOANTHROPUS-LOWE
設定解説
へキサグラム、それは“人類の英知の結晶”と呼ばれこの地球上においてかけがえのない価値を生み出した。人々は施設「結晶炉」を以って莫大な数のヘキサグラムの生成を始めた。やがて私利私欲に基づいてこれをいたずらに生み出す者はSANATによる粛清の対象となった。再生可能なエネルギーを生み出すこの結晶体は、その素材となるエレメントの生成時に大地へ深刻な汚染を拡げてしまう。
環境管理を顧みることなくこの天体の寿命を縮め続ける人類の罪はとてつもなく重いのかもしれない。
しかし、既に生み出されてしまった“人類の英知の結晶”は今も人々を結晶炉へと誘う。
その日多くの命が失われた。
「人が人である自由を勝ち取るために」と息巻く企業連合勢力はヘキサギアを駆り、パラポーンとなった元同胞を全て破壊するべく躍起になっている。そしてSANATを自分達の上位存在と認めてしまったMSGの勢力もまた「人々の未来を照らし豊かな世界を創るために」と結晶炉へ殺到した。相容れない彼らは機械の獣に跨り、果ての無い戦いを経てその手に宝を掴もうとした。しかし、その日ひとつとして彼らの手に渡ることは無かった。
夜の闇にまぎれて戦う漆黒の獣が動きを止め、燃え盛る炎の中を注視する。何かが来る。
黒い獣に搭載されたKARMAはゾアテックスのもたらす本能に従ってその場を離れた。
炎の中から飛び出した影によって最初のひとりが引き裂かれる。腹部付近の関節部から上下に別れた“それ”のセンサーはゆっくりと光を失っていく。影は右腕にぶら下げたそれの光が完全に消えるとぶっきらぼうに投げ捨てた。
目の前の戦いに囚われ現われた影の存在にすら気づいていない愚か者は背後から貫かれ、ヘキサギアはバラバラにされる。機体も生体も関係なくすべては残骸へと変わり、長年共に戦ってきた相棒たちは何千何万回も繰り返してきた作業のように手際よく解体されていった。
どのくらい時間が経ったのか、夜の闇は失われ周囲の炎も勢いを失っていた。
屍の山と成り果てた友の上であいつは我々を見下ろしている。赤く光る眼がはっきりと自分と愛機の事を認識している。
我々は追いつかれることを覚悟して逃げ出していた。
数キロも離れた場所からそっと元いた場所を確認すると山の上で座ったまま機能を停止し束の間の休息をとる獣人の姿があった。
その日その場所にいて生きて帰ったのは我々だけだった。記憶から消せないほどの恐怖を植え付けた“あいつ”のことを我々は本部に報告せねばならない。
燃え盛る炎の中から現れたのは「ヒトの形をした獣」。
後にゾアントロプスと呼称される個体が最初に確認されたのはこの時であった。
武装
グラムカッター
ゾアントロプスが使用するヘキサギアの解体ツール。鉈のような形状をしており非常に頑強である。刃部分は高温を発する一種の熱ブレードであるが、ヘキサグラムの形状変化を初期化する特殊機能を持っており、ヘキサグラムによる駆動装置を効率的に無力化することが可能。
ゾアントロプス本体と同じく正式な名称は知られておらず“リムーバー”の通称で呼ばれる。
アイアンネイル
両手は鋭く頑強なツメを持っており第三世代ヘキサギア程度の装甲であれば徒手空拳で貫く強度を持つ。
人工筋肉
強度と柔軟性を両立した高性能な人工筋肉を全身に使用している。ヒト型の体型でありながら獣のようにしなやかな動きを可能にし、現存するパラポーンやアーマータイプ以上の運動性を誇る。現状において最も近い性能を持つものは最新のパラポーンであるエクスパンダーに使用されているヘキサグラムを素材にした人工筋肉であるが、本個体の運動性能はこれを大きく上回っている。また戦闘による損傷部が時間経過によって自動的に復元したことが報告されている。このことからリバティー・アライアンスはおろかMSGですら持っていない独自の技術を持つと推測できる。
ゾアテックス
本個体は肉食獣のような獰猛な獣性を持ちながら、鍛えられた兵士のような戦闘技術を持っていた。アースクライン・バイオメカニクスによれば、本個体にはKARMAが実装されている可能性が高いと報告されている。
先の獣性がゾアテックスによるものだとすれば、不可能だといわれる人型の機体でゾアテックスを発現しこれをコントロールしていることになる。リバティー・アライアンスは現在これと同様の兵器を開発しようと計画し、本個体は以降ゾアテックスを克服したヒト「ゾアントロプス」と呼称されるようになる。
また「レーヴェ」という別称は“捕食者の頂点”の意味を込めて名付けられたものであり現時点では同一個体一種のみが確認されている。
共振励起
本個体において、リバティー・アライアンスの保有するヘキサギア「レイブレード・インパルス」独自のシステムである共振励起が搭載されているかは未確認である。しかしながら常軌を逸した運動性や戦闘能力、そして共振励起中のレイブレード・インパルスと同じ青白い励起光などから搭載されている可能性は非常に高いと言われている。
爆発的なエネルギー出力の代償に一定時間後には全てのヘキサグラムが基底状態にまで減退する共振励起だが、本個体においては長時間の戦闘にも関わらず出力減退は確認されていない。ゾアントロプスと遭遇し生還した報告者によると破壊したヘキサギアから奪ったヘキサグラムを物理的に取り込み、自らの活動エネルギーに変えていたのではないかと推測されている。
インペリアルロアー
ゾアテックスヘキサギアに対して短時間の動作不良を発生させる咆哮。電子戦の一種であるが、ゾアテックスヘキサギアにおいては獣同士の威嚇行動に近い意味を持っている。