EPISODE : 000
種々の燃料資源が枯渇して後にようやく現れた、新たなる産業基盤の礎。
劇甚な汚染と引換に創出される、無尽蔵のエネルギー凝集パッケージ。
ヘキサグラムと呼ばれたそれの登場は、世界の産業の拠所を急速に転換させ、旧い経済主体と国境線を破壊し尽くして、企業の名の下に世界を組み替えてしまった。
国家とその連合体制は衰退し、かわって巨大複合企業体が残存都市を中心に代理政治を始める。
しかし、歪に変形していく繁栄の昏睡の中で、世界の人口は既にその過半を失いつつあった。
人類は文明再建の一つをヘキサギアと呼ばれる工業規格に託した。
これはヘキサグラムを前提に規定された次世代の工業規格であり、基礎フレームレベルの高い換装自由度によって優れた状況適応性を持っていた。次第に停止していく旧来の機材に代わって最も安定した動力付大型機械となったヘキサギアは、地上においてその活動分野を広く拡大していく。
しかし、世界の再建を目指した筈の規格は、いつしか煽り続ける火種にくべられた焚物と化してしまう。
純軍事目的のヘキサギアが次々と現れる。新時代の戦争と共に。
ゾアテックスなる獣性を内に秘めて。
都市の深奥に構築されたもう一つの再建。救世の為に設えられた遠望の視座。
人工知能SANAT。
繁栄の永続を願って造られた知性は人類に寄り添い、長い探求と思索の末に何かを失う。
SANATの導く世界の再整備は不可能な領域へと歩み出し、方策は人の思惑と行き違う。
最大規模の複合企業体『MSG』の失陥から拡がる、全方位への敵対的社会侵蝕がもたらす急速すぎる異形の戦渦。
逼塞する人類社会はSANATとの戦争に臨み、己の形をも順応させていく。
屹立する結晶炉と、それらを取り巻く要塞都市。
雲を突き抜けて聳え立つジェネレーターシャフトの威容。
残された都市に閉塞する人々と、大事に滲む透き通った汚染の影。
廃墟を駆け抜けるヘキサギアの群。
そしてSANATの構築に深く関わった科学者は、最後に自らが手がけたヘキサギアをある人物に託して姿を消した。
最後に彼の遺した言葉だけが記憶にあり、人々はその言葉を追って彼の足跡を辿り始める。
– 「破壊も創造も、すべておまえが決めろ」 –