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WORLD ヘキサギアの世界

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EX EPISODE MISSION01
[熱砂の暴君]
第二章

「随分とやられてしまったな。アグニレイジが呼べれば、あの程度の戦力にてこずることはないものを……」

「あれは各結晶炉専属の上、調達もまだこれからだろう。しかも連中にここまで食い込まれてしまったら、例の主砲も使えない。我々ごと焼き払うことになる」

「さあな。だが、エクスパンダーのどれかが派兵されているという情報もある。今回の件、本当に廃棄試作機の回収だけなのか」

「……SANATを疑うような言動は為にならないぞ」

「いや、そういうつもりでは」

「とにかく、しばらくこの場所からは動かせん。この一帯に布陣して防衛戦になる。各自配置を確認しろ」

 

ヴァリアントフォース、トランスポーター内。
今次の部隊編成では存在しないことになっている自律機動試験型ヘキサギア、八二式甲型 火華-ヒバナ-。その専属ガバナーであるアーレスは機体に話しかけていた。

「稼働効率は70%と言った所か。戦闘行動には支障無いか?」

〈左腕の挙動が遅れぎみですね〉

機体から発せられる通信音声。アーレスは友人の状態を気遣うように機体情報を走査する。

「ヘビーライフルが同期していないんだろう。今回は調整が間に合わん。照準とトリガーを直接操作にして同期を切れ。それで左腕自体の障害は無くなるはずだ」

〈そういうことならヘビーライフルは早めに撃ち捨てますよ。自分の感覚で撃てるのでバルクアームの火器管制照準よりはマシなんですけどね〉

「ハハ、そうだな。さて、そろそろ出撃だ。いいか? 今回はあくまでも実戦環境でのデータ計測が目的だ。機体の保全が最優先となる。そのことを忘れるなよ」

〈今は自分の身体みたいなものですからね、ちゃんと持ち帰りますよ、アーレス。まあ、わざわざ重要な試作機回収任務で秘密裏にテスト……少々きな臭い気がしますね〉

「それには同感だ。今回は……背後も警戒しておいた方がいいかもな」

 

 

 

 

 

 

一方のリバティー・アライアンスも緒戦で想定より大きな損耗を抱えていた。

エアストークより司令部へ。第506中隊よりブルー中尉が到着されました。」

当初の作戦は変更され、近隣の部隊に増援の為の移動が発令されている。
戦況は、オールイン・ジ・アースの行き足が止まったことでその周囲にヴァリアントフォースのヘキサギア部隊が多数集結する結果となり、堅固な防御線を形成されていた。
リバティー・アライアンスも後続の部隊が続々と到着しているが、これまでヘテロドックスの連中とはあまり交流のなかった部隊も多い。互いの特性などどこまで把握しているかも怪しかった。

「第506中隊所属、ブルー中尉だ。諸君らも知っての通り、先の戦闘の結果から司令部は作戦の上位目標を変更した。すなわち、標的の撃破が第一目標となった。我々の中隊もこの付近まで進出し出撃に備えている。先の戦いを生き残った諸君らと連携し、今度こそあれを撃破したい」

「知っての通り我々の主力戦闘ヘキサギアは第三世代だ。標的の持つ特殊な兵器は、これら第三世代機のゾアテックスによる機体制御に障害をもたらす。どうやらゾアテックスの獣性発現を利用しているようでな、障害レベルはKARMAの成長度によっても個体差があるらしい。同様に、ヴァリアントフォースの機体も影響を受けているようだ。しかしながら、場合によっては士気高揚という使い方もあるかもしれん」

「作戦概要を説明する。まずは標的周辺から護衛部隊を分散させる。我々の部隊が大規模な陽動攻撃を行い、街の東側に護衛部隊を誘引する。この時、陽動部隊はインペリアルロアーの効果範囲には決して近寄ってはならない。防御の薄くなったところに本隊が突撃し、一気に片をつける。」

「標的――オールイン・ジ・アース自体は未完成のままと推測される。その強力な獣性から自律性も高く、恐らくヴァリアントフォースも奴の細かい行動まではコントロールできていない。ヴァリアントフォース管理区画への移動命令を最優先として、自身への直接脅威以外は無視しているというのがKARMAの一致した見解だ。標的までもが陽動に誘引される可能性は低いとみている」

 


「こちらメイナード、アウローラI型です。援護射撃は任せてください。今回はどでかいのを持ってきましたからね。俺のほかにはどんな奴らがいるんです?」

メイナードのアーマータイプに僚機の情報が送られてきた。

 

ブロックギアンチュラ:先の戦闘でボルトレックス・スティンガーを大破直前まで追い込むが、オールイン・ジ・アースのインペリアルロアーによって一時的な機能障害、離脱に成功するものの戦闘によるダメージ評価15%。後方の野戦整備場にて補修中。
エクスバルク・アサルト:インペリアルロアーによって機能が停止した仲間のガバナーを救出、一時戦線を離脱。ダメージ評価5%。消耗したヘキサグラムの再生中。
イルーシブアイ:ボルトレックスベースの火力支援タイプ。損傷無し、待機中。
叢林:強力なレールガンを装備した試験機。運用試験中の為、戦力評価に留意事項あり。損傷無し、待機中。

 

「そのほかはブレイズフェンリルデザート・インパルスか…なるほどね。ブルー中尉の機体はレイブレードを使っていないな、エネルギー効率に不安が残るからか…リストの中には叢林、テールカッターなんてのもあったがほとんどが第三世代か……。ネル、俺たちはロートルだ。あんまり出番はないかもなあ」

〈我々KARMAを搭載したヘキサギアにとっての勝率はそのガバナーとどれだけの信頼関係を築けたかで決まります。要は私達と貴方次第です〉

 

 


再始動したオールイン・ジ・アースは以前と比べてその獣性を増していた。実戦闘を経験したこと、手傷を負ったことで自己保存形質が活性化したことが原因であった。

「護衛部隊を引き剥がすことには成功したものの、これはこれで厄介だな」

遠距離からアウローラI型がオールイン・ジ・アースに向けて対艦用重レールガンを放つ。
オールイン・ジ・アースの大腿部のチャージングブレードが吹き飛ぶ。

「いいぞメイナード! そのまま削ってくれ!」

「テールカッターはブランディッシュハンマーを狙え。叢林は奴の装甲を貫通できなくとも射撃を続けろ。私のデザート・インパルスが突撃して攪乱する。奴の動きを誘導できれば好機も来るだろう。いくぞ」

「了解」

各部の武装が剥がれ落ちてもその勢いを失わず、執拗にデザート・インパルスを追いかけるオールイン・ジ・アース。

「その図体でインパルスについてこられると思うなよ!」

ブルー中尉の乗る機体はベース機がレイブレード・インパルスと呼ばれる強襲用高速戦闘ヘキサギアだった。
バラック小屋の錆びたトタン屋根を蹴って急旋回し、オールイン・ジ・アースの正面から果敢に飛び込む。オールイン・ジ・アースはその動きを読んでいたかのようにその場で旋回し、ブランディッシュハンマーを叩きつけようとする。ブルー中尉は振り落とされそうになりながらブランディッシュハンマーを潜り抜ける。デザート・インパルスはレーザーエミッターを発振させ、すれ違いざまにオールイン・ジ・アースの装甲を抉った。

 

再びオールイン・ジ・アースの正面に着地するデザート・インパルス。本隊突入から10分が経過しており、ガバナーはすでに肩で息をしている状態だった。
一発もらえば終わりなのはどの戦場でも一緒だが、緊張感が違う。
目の前の巨大な標的をブレイズフェンリルと取り囲む。ブレイズフェンリルが視界の端を掠めて疾駆し、デザート・インパルスも一秒と置かず地を蹴った。
KARMAの表示するマップにネイル・ワイズマンデンジャーレックスが表示される。
一度引き離したヴァリアントフォースの護衛部隊が戻り、上空にも敵の増援が到着しつつあった。

 

 

この数分で、味方の損害は更に積み上がっていた。

「どうする……もう長くはもたないぞ」

ローターロッド・ワイバーン

小型回転翼機のような飛行型ヘキサギアがオールイン・ジ・アースの上空を旋回している。
その上空からの散発的な射撃に妨害されて、僅かに浮足立つ。
デザート・インパルスの動きがやや鈍ったと見て取ると、ローターロッド・ワイバーンはシステムコンバートしゾアテックスモードで襲い掛かってきた。
回転翼を構成していた超振動ブレードが左のレーザーエミッターを破壊する。
そこにネイル・ワイズマンが横殴りを掛ける。オールイン・ジ・アースの躯体すら利用して軽快に飛び回り、デザート・インパルスに重量の載った殴打を振るう。
機体のフレームが歪み、機動力が削がれていく。
ブレイズフェンリルがカバーに入り大破までは至らなかったが、ブルー中尉の機体はもはや戦える状態ではなかった。

「態勢を立て直す必要があります。ブルー中尉、援護しますので後退を!」

ブレイズフェンリルに搭乗する女性ガバナーが叫んだ。

「もうその機体じゃ囮にもならねぇ、あんたは下がって指揮を執ってくれ!」

ブレイズフェンリルはエネルギーブレードを発振させる。その目に映っているのは巨大な2足恐竜のような形状のデンジャーレックスだった。

叢林の援護射撃の合間を縫って距離を詰めるが、多数の火器から吐き出される弾雨がブレイズフェンリルを襲う。口腔部の指向性エネルギー兵器が発射される。
ブレイズフェンリルが放たれたビームを避けた先には、ネイル・ワイズマンの巨大な掌が待っていた。

 

 

後退を余儀なくされたブルー中尉は、味方の誘導に従い単身でとある区画へと向かっていた。
その背後をヘテロドックスの機体がそっと追跡している。大型のインセクトフレーム――グラウアーマイゼと、面貌を花で象った異形の女性型パラポーンだった。グラウアーマイゼの背に取り付いたイミテイトローズは、一本横の街路をよろめきながら走行するデザート・インパルスの姿を捉え続けていた。

〈ガバナー、まもなく目的地です〉

マップに指示されているのは野外でヘキサギアの搬送や換装などを行うための大型トランスポーターだった。ブルー中尉の装着するアーマータイプに通信が入る。若い男の声だった。

「ブルー中尉、もう少しです。何としてでもその機体のKARMAとともにこちらへ。スナイパーが援護に入ります」

ブルー中尉は機能停止寸前のデザート・インパルスをトランスポーターへ向けて進める。

「くそっ! 速度が落ちている。追いつかれるぞ」

背後の追跡者には気付いていた。
グラウアーマイゼが無人のバラック小屋を乗り越えて姿を現す。無機質な蟻が放ったレールガンの砲弾が、十字路を曲がったデザート・インパルスの横をかすめる。
入れ替わりに、狙撃手イーサンの放った弾丸がイミテイトローズの頭部を撃ち抜いていた。
トランスポーターの後部ドアが開いており、デザート・インパルスはすんでのところで飛び込む。限界に来ていた歩みが遂に崩れ、転倒して奥まで滑り込んで停止した。

「機体を収容した。直ちに発車しろ!」

アースクライン・バイオメカニクスの認識票を付けた技師達が駆け寄ってきて横たわる機体からブルー中尉を引き出し、その場で手当てを始める。

「リバティー・アライアンス上層部の命令により、今から貴方の機体のKARMAを取り外しこちらの機体に積み替えます。急いで!」

 

 

「なんだと?」

彼らはまだ熱を持ったまま震えているデザート・インパルスの機体を開いてKARMAの筐体を取り上げると、背後に格納された大型の第三世代ヘキサギアへ積み替える作業を始める。
トランスポーターが不意に車体を大きく振った。何かに次々衝突しながらそれでも前進する。中にいる技師達はそのたびに揺さぶられ、内部の機材は至る所で火花を散らす。
トランスポーターの外壁にグラウアーマイゼが取り付き、顎部のバイティングブレードを突き立てていた。

 

〈人工知能KARMAは機体構成を走査中。現在のアセンブルに適合した制御アルゴリズムを構築しています〉

試作機らしい、どこか歪な装甲。不安な、野心の過ぎるように見えるこの機体。

〈KARMAの相互ネットワークに復帰。戦域情報を更新。各種データをダウンロード中〉

いや、各地で転戦を続けながら補修整備を行い次々に装備を換装していく。ろくな試験もできず即日実戦に投入し、信頼性など誰も気にしなかった。長く戦地にいるヘキサギアとガバナーとは、本来そういうものだった。
自分達の戦歴も。

〈ようこそ私のガバナー。私たちにはあなたが必要です〉

「ガバナー! こちらの準備はOKだ」

技師の手を借りてコクピットに乗り込むブルー中尉。コンソールに一瞬映し出されたコードは『グライフ』。
こいつもレイブレードを装備しているのか……俺のKARMAの経験と実績が必要なわけだ。
以前、戦闘でレイブレードを使用した時のことを思い出す。その顛末も。

「……KARMA、行けると思うか?」

〈覚悟を……決めましょう〉

 

ついにトランスポーターの後部ドアが脱落した。
侵入を図るグラウアーマイゼは、しかし内部から飛び出した4脚獣型のヘキサギアによって外へと弾き出された。地面を転がりながら6本の足で踏み止まる。
次第に遠ざかるトランスポーターの上、巨大な翼を広げた機械仕掛けの幻獣の姿があった。

 

 

『レイブレード・グライフ』

アースクライン・バイオメカニクスが誇る最速の強襲用高速戦闘ヘキサギア「レイブレード・インパルス」をベースに、幾つもの機体部品を統合した試作ヘキサギア。四足型でありながら飛行装置を備えた、攻撃機型。
ブルーのアーマータイプに通信が入る。

「その機体はレイブレード・インパルスとは大きく異なる特性を、空中機動力を持っています。しかし、飛行型ヘキサギアへの経験は無くても心配ありません」

ブルーは自分の手足が自由に動かせなくなっていることに気付いた。KARMAがアーマータイプを制御し、シートやハンドルに四肢を固定しているのだ。

「ここでの戦闘を収束させるには、もうこの機体を投入するしかありません。その為には貴方とKARMAの人機一体が必要となります。これが今、我々が提供できる最大の戦力なのです」

 

「了解した。この力借り受ける」

 

 

対艦攻撃用重レールガン・叢雲を構えるアウローラI型はオールイン・ジ・アースへ向けた射線を維持することに苦戦していた。
周囲では友軍が敵のヘキサギアと戦っている。

「第三世代ヘキサギアにこうウロチョロされては狙いようがないな。さっきから、あそこの緑色の人型ヘキサギアがいいタイミングで狙ってくる」

 

アウローラI型の上に大きな影が落ちる。見上げると、高速で飛行するヘキサギアがオールイン・ジ・アースに向かっていた。

 

アクゲキの巨大なギガントナックルがネイル・ワイズマンの腕をつかむ。旧式ながらパワーでは第三世代ヘキサギアに劣ってはいなかった。両手を使ってその動きを封じる。
アクゲキを踏み台にして軽快な動きのソリッド・インパルスが跳び上がり、ネイル・ワイズマンの頭上から襲い掛かる。ネイル・ワイズマンのガバナーの一体を狙ったガトリング砲が猛射を浴びせ、グラビティコントローラーによるプレス攻撃で本体フレームは異音を立てた。ネイル・ワイズマンはスモークグレネードを展張、その両腕を切り離し煙幕に紛れて離脱した。

 

ブレイズフェンリルは満身創痍で立っていた。火器を満載したデンジャーレックスの攻撃を連続で受け、致命的な損傷は避けてはいるもののその装甲はあちこちで剥げ落ちていた。
対するデンジャーレックスも装備火器のいくつかは弾薬を撃ち尽くしている。距離を取って移動し、口腔部の指向性エネルギー兵器で周囲を一掃する構えを見せていた。

「ロキ、全力で行く。シルヴィ、俺に摑まれ。こいつはここで止める」

ブレイズフェンリルは敢えてデンジャーレックスの前を横切り、左右に跳ね回りながら接近する。フェイントから前方への急激な加速で、デンジャーレックスの視界から消え去る。
大型のエネルギーブレードが眩い光を発し、デンジャーレックスの喉元を深く焼いた。
デンジャーレックスはその爪でブレイズフェンリルの機体を捉えようと掴みかかる。空を斬るエネルギーブレード。両者の火器が至近距離で炸裂する。爆煙の中で指向性エネルギー兵器が天に向けて放たれ、すぐに途切れて絶えた。
大きな爆炎の中でくずおれる2体のヘキサギア。
ブレイズフェンリルのガバナーは仲間を連れて脱出した。

 

 

オールイン・ジ・アースは頭上を見上げた。新たな脅威を認識し上空を睨め付ける4つの眼が捉えたのは、巨大な翼をもった4脚獣型の姿であった。
ローターロッド・ワイバーンが両断され、二つになった残骸が別々に落下する。

 


 

「最終ラウンドだ」

レイブレード・インパルスを超える直線的な高速性能。加えて三次元の運動が陸戦兵器とは全く異質だった。ブルー中尉を苛む加速度と衝撃はデザート・インパルスの比ではなく、アーマータイプの限界を超えた負荷が肉体を圧迫し、血の味を感じながらコントロールグリップを握る。
突然の強襲に標的はまだほとんど対応できていない。前肢のプラズマタロンで背部装甲を引き裂く。内部にバルクアームαの操縦殻らしきものが埋め込まれているのが見て取れた。

「報告では無人機だったはずだが?」

標的は機体の損傷に怯んだ様子もなくブースターに点火して跳躍する。上空を飛ぶグライフをめがけて、頭部のバイスグラインダーが甲高い音を上げて襲い掛かる。
グライフの後方に放射状に延びたラジアルブースターが空中での姿勢制御を助け、標的の攻撃を一瞬で回避する。
落下軌道に入った標的は空中で無防備な姿を晒していた。
グライフは急降下して標的を上から押さえつけ、そのまま地面へと叩きつけた。転倒し、地面に這いつくばるオールイン・ジ・アース。

「斃れろ!」

 

「今だ!」

はるか遠方から攻撃機会を窺っていたテールカッターがようやく放たれる。

 

グライフがふわりと飛び去ったところにテールカッターの爆導策が到来し、繋がった爆薬の束が標的を跨いで降りかかる。
直後、起爆。一列に並んだ爆轟が沸き起こり、標的を街ごと押し包んだ。
標的はそれでも立ち上がろうと試みるが、バランスを失い再び前のめりに倒れる。
周辺の機体が集まってきて、立ち込める砂埃に向かって銃弾を浴びせる。装甲を叩く衝撃がフレームへのダメージを着実に蓄積する。
銃弾の雨の中で立ち上がる。胴体側面の近接防御火器や装甲版が外れて脱落していく。標的は両足を深く沈め、ブースターに点火した。
一際大きく跳躍して包囲するヘキサギア部隊を飛び越え、バラック小屋の密集地まで跳んだところで数条の砲撃が標的を掠め、体勢を崩しながら墜落した。

アースクェイク!

落下の振動が大地を揺らし、巨体がバラック小屋を轢き潰しながら何度か転がって停止する。
墜落の衝撃で崩壊が始まっていた。躯体があちこちで分断していて、一部は離れたところに落ちていった。

「照準検知!?」

アウローラI型のメイナードは標的との距離をとる。
もはやどこも原形すら保ってないが、その頭部センサーにはまだ赤い光が灯されていた。

 

ヴァリアントフォース ファットストーク内。

「エクスパンダー№43、『オールイン・ジ・アース』は大破。各部のユニットはまだ生きているかと思いますがどのように処理しますか?」

№43と呼ばれたパラポーン・エクスパンダーが静かな声で答える。

「アグニレイジが完成した今、インペリアルロアー実験機など必要ない。すべて破壊しろ。もっとも、リバティー・アライアンスの連中はあれが何かも分かっていないようだがな。それと、俺にはやることがある。しばらく外すぞ」

「どこへ参られるので?」
「ささやかな愉しみだ。邪魔をするなよ……」

№43は巨大なガトリングブレードを携え、上空から飛び降りた。


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