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WORLD ヘキサギアの世界

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EX EPISODE MISSION02
[魔獣追討]
Chapter: 02 リバティー・アライアンス

「本隊の位置が知られた。アルバトロス、奴を逃がすな!」

アースクライン・バイオメカニクスの専属ガバナー「フリット・バーグマン」は白い愛機のKARMAへと話しかける。
白いロード・インパルスの四肢がしなやかに跳ね、潜伏していたヴァリアントフォースのヘキサギアへ一気に迫る。機体後部で長くしなるトリックブレードが予測不能な動きで旋転する。
敵は小さなロケット航空機のようなシルエットの第三世代ヘキサギア。「T303春火(はるか)試作型」は2基のエアマニューバスラスターを即座に最大推力に引き上げると、ロード・インパルスのトリックブレードを間一髪で避けて空へと舞い上がった。青い励起光の尾を引き夜の闇を駆け上っていく。

「見たことの無い型だ。あんな試作機を出してくるとは……それともアレも現地改修機って奴なのか?」

見上げると、上空を旋回していた「ストームエリミネーターV2」が翼を翻し、一瞬の滞空の後エアフローターの角度を変えて勢いよく追撃を開始する。アナデンの居住区も近い。万が一にもそちらに弾が流れないよう占位しつつ、胸部のマルチプルガンで「春火」の行く手を弾幕で遮る。相手は軽装甲の空中機動型だ。機関銃程度でも無視はできないだろう。

だが「春火」は銃弾の雨をかいくぐり、さらに増速していく。

不意に、リバティー・アライアンスの通信回線から音声が流れる。

「……その敵機は攻撃手段に乏しいようだ。空中から高速で格闘戦を仕掛ける事で、一時的にでも飛行能力を喪失させればいいという思い切りの良さが伺える。グライフが飛び立つ瞬間でも狙っていたのか……」

レイブレード・グライフを載せたトランスポーターの中、アースクライン・バイオメカニクスのエンジニア「アレクサンダー・マーフィー」がKARMAによって共有されたここまでの戦闘ログからの分析を共有する。

「奴はこのまま離脱するつもりだ。ウェイナー!」

渓谷の間から、一条の光が放たれる。
僅かに遅れて、発射音が渓谷に谺した。

ゆっくりとした歩みで姿を現したのは、ボルトレックスよりも僅かに大型のヘキサギア。リバティー・アライアンスに所属するガバナー「ブルックス・ウェイナー」の機体だった。
まだ砲煙の立ち上るテイルキャノンが折りたたまれていく。

「敵に感知されないようにディセプションリピーターを使用していた。悪かったな」

と悪びれる様子もなくウェイナーは仲間に声をかけた。

 

巨大な渓谷地帯に建設された鉱山都市「アナデン」
リバティー・アライアンスにもヴァリアントフォースにも迎合せず、中立の立場を取り続けるヘテロドックスの街だ。早期退去を条件に滞在を許されたリバティー・アライアンスは、先の戦闘で出撃したレイブレード・グライフを整備・改装し、また部隊の戦力を立て直すために、山中の空洞を利用して作られた古い工場跡地を借り受けていた。
そこは製造機械こそすっかり撤去されていたものの、大型のトランスポーターが出入り可能なゲートも山間にうまく隠れており、臨時の整備場とするにはうってつけの場所だった。

「マーフィー、グライフの様子はどうだ?」

戻った3人が目にしたのは、トランスポーターから引き出され、外装を外されたグライフの姿だった。特徴的な背部の翼「オーバーレイウイング」は、碑晶質特有の宝石のような輝きを見せる。その表面に浮き上がった紋様は、これまでに見たことのないものだった。
「今はKARMAも積んでいないからな。整備と改装はじきに済むだろう」
ヘッドマウントディスプレイをしたままのエンジニアが振り向きもせず答える。
オールイン・ジ・アースとの戦闘では翼端に搭載されている規格外兵器「レイブレード」こそ一瞬しか使用しなかったが、空中から降下する際の慣性にグラビティコントローラーの荷重を上乗せした強烈なプレス攻撃を放っている。その時の衝撃は機体のあちこちに強い負荷をかけていたものの機体に大きな歪みや損傷はなく、ヘキサグラムの出力も定常に戻ったグライフは、改装が終わり次第すぐにでも戦闘可能な状態に思えた。
搭乗するガバナーと、搭載するKARMAの不在という問題を除いては。

 

前回搭乗したブルー中尉は既にこの一帯を離れ、療養に専念しているという。レイブレード・グライフを戦力化するには今いるガバナーの中から新たな搭乗者を選ぶ必要があるが、それは護衛部隊の隊列から一名が欠けるという意味でもある。アースクラインの機密が多く含まれる機体だけにアナデンやその他からの傭兵を使う訳にもいかず、整備後も戦闘には投入せずに輸送することすら検討されていた。

「私がガバナーとして戦うことができるなら、いますぐこの命をグライフの為に捧げるのだがな」

マーフィーは芝居がかった仕草で残念な様子を見せ、その癖っ毛の頭を掻きむしった。

「フリット、君が乗ってみるか?」

ヘッドマウントディスプレイをはね上げ、この場に居る中で最も特性の似たヘキサギアに乗る人物へ問いかける。

「空中機動型を扱った経験はないし、レイブレードを見るのもこれが初めてなんだぞ」

フリットは肩をすくめて回答し、ストームエリミネーターV2のガバナー「ショウ」へと視線を向ける。

「ボクみたいな新入りには荷が重すぎませんかね……」

ショウは困った表情を隠そうとせず、ウェイナーの方を見た。

「やれやれ、俺が乗ったら誰がこの部隊の指揮を執るんだ?」

こちらも眉を寄せて困ったような顔で答える。フリットとマーフィー、ウェイナーはアースクラインでの同期ということもあり互いに気の置けない関係であった。その中でも年齢が少し上のウェイナーは過去の経歴を買われ、護衛部隊の副隊長を任されていた。

「まあ他にも候補はいるが、いずれにせよその時が来たら誰かが乗らなきゃならん」

現在、オールイン・ジ・アースの残骸は分割され複数の部隊に分かれて輸送している。
レイブレード・グライフを擁する彼らは一種の陽動部隊でもあった。他の部隊の移動を支援するために、できる限り敵の兵力を誘引することも任務に含まれている。

第4ゲートブリッジ。総延長、数十キロにも及ぶ古い高架道路。
渓谷地形が連続したこの一帯を陸路で高速移動できる、ほぼ唯一のルートだった。
ここを通過すればアナデンの勢力域からも離れ、リバティー・アライアンスが差し向けた増援部隊とも合流できる。そこでなら存分に一戦交えることができるのだ。

「アナデンの連中にはボクらを良く思ってない連中も多いみたい。少なくとも契約外のヘテロドックスを味方と考えることは危険だね。このルートが遮断される前に、できるだけ早く移動しておきたいよ」

 

 


翌夕。この地域特有の、渇いた黄昏時。
改装と整備を終えたレイブレード・グライフが、専用のトランスポーターへと積み込まれていく。
ウェイナーは愛機「ボルトレックス・リヴァーレ」の操縦席上で、戦場での僅かな娯楽を満喫していた。仕事の前の一服は大事だ。“生きて”帰ろうという気持ちを強くさせる。
ウェイナーは短くなった煙草をアーマータイプの装甲でもみ消すと、新たな一本を口に咥えた。
こんな風にコンバットヘルムを開けていられるのも、せいぜいあと半日だろう。その頃には硝煙弾雨の中かもしれない。最新の戦域情報では、ヴァリアントフォースは着実に追いついてきていた。第四ゲートブリッジそのものが戦場になる可能性まで出てきて、アナデン側もかなりの警戒をしている。
彼は無事に帰る為の儀式と言わんばかりに煙草に火を付け、一呼吸吸い込むとため息のように煙を吐き出し周囲の様子を窺った。
工場跡地から少し離れた場所。集結地点として選ばれた山間の中の空き地に、リバティー・アライアンスの急遽招集したヘキサギアやガバナーが集まりつつあった。
古い型の第二世代ヘキサギアも何機か混じっている。
ウェイナーは集まってきたガバナーに積極的に話しかける。慣れない相手と一緒に戦う戦場ではこういった事前のコミュニケーションが重要なのだと、彼は経験上知っていた。

「レッドメア、今回も世話になる。自慢のスパイラルクラッシャーでぶん殴る姿を見せてくれよ」

赤い外装が特徴的なバルクアームαの改修型「クリムゾン・クロー」脚部に無限軌道を増設した重装備仕様。

「あんたたちが困っているんじゃないかと思って名乗り出たんだよ。前回は目立った戦果を挙げられなかったからなあ。報酬はたんまり弾んでくれよ!」

かつてヴァリアントフォースから離反し、今ではヘテロドックスの傭兵をしている男「レッドメア」は、開放したコックピットからウェイナーへと鷹揚な挨拶をした。
背面にやたらと増設された何かのブースターと、とにかくでかい盾が特徴の「バルクアーム・フェンサー」これも年代物だ。だがいざとなったらこの突破力に頼ることになるかもしれない。
ウェイナーが個人的に注目しているのはリバティー・アライアンスから派遣されてきた「鎧麒麟」だった。こいつはデモリッション・ブルートに近く、第三世代ヘキサギアでありながら重装甲を売りにした機体だ。機動力も高く、車列と並走することも可能だろう。隊列の先陣を切るのに最適と思えた。
火力で敵を寄せ付けない「アイアンハーミット」。こいつの装甲も頼りになりそうだ。
エイド・ケラトプス」には隊列の防空を任せたい。
機動戦を主とする第三世代ヘキサギアではトランスポーターの盾にはならない。
頼んだぞ。

「ウェイナー副隊長、戦力の配置はどうする?」

背後からフリットの声が聞こえる。

「お前は何人か連れてトランスポーターの左側面に。第4ゲートブリッジに入るまでは機動防御だ。敵をグライフに近づけるな」

ウェイナーは煙草の灰を落としながら指示を出した。
ウェイナー自身の率いる部隊は本隊から分離して先発、第四ゲートブリッジを先行して進路前方の脅威を測る戦闘斥候として前に出る。敵の襲撃があれば彼らが対応し、その間に本隊を安全に通過させる。

「ロード・インパルスについてこられる機体はとにかく前や側面で機動させる。いまリストアップした頑丈な機体は無蓋トランスポーターに積載し、本隊に並走させろ。ガバナーは全員、常時戦闘態勢で待機だ」
「あなたはグライフには乗らないのか?」

フリットは問いかける。

「いいか。グライフには頼るな。VFの連中がここで例のインペリアルフレイムを使わないように、俺たちもここであの兵器……レイブレードを使わない。出番がないならそれでいいんだ」

煙草の灰が落ちる。

「それに……いや、なんでもない」

ウェイナーは口に出そうとした言葉を飲み込んだ。
ガバナー殺しのグライフ。ただ動き、走り、飛ぶ、それだけでガバナーの身体は損壊する。
戦う前にアイツに殺される。
そんなことを考えていた。

「分かりました。無事に戻れたら一杯やりましょう。私とあなたとマーフィーに、ショウも呼んで4人で」
「白堊の酒なんてまずくて呑めるか」

ウェイナーは舌を出して心底ごめんだという顔をする。

「あなたの吸っている煙草も白堊製では?」

ウェイナーの吐く煙を迷惑そうに払いながらフリットは言う。
ふと、その背後に視線が流れた。まるで誰かに見られているような―――。

「馬鹿いうな。前の戦場近くにあった市場で手に入れたんだよ。この辺りに作っているやつがいるらしくてな」
「……そんな出所の怪しいモノをわざわざ苦労して手に入れる気がしれないですよ、俺は」
「この小さな幸福が生身を持っている楽しみだろうが、分かってねえな」

二人はそう言うと互いの拳を突き合わせた。

「死ぬなよ」
「あなたこそ」

 

マーフィーはそんな二人のやり取りをトランスポーターから見ながら、一件の報告書を作成していた。

送信先:白堊理研

選出者:フリット・バーグマン 27歳 男性
第三世代ヘキサギア「ロード・インパルス」のガバナーとして本作戦に参加。実戦の経験があり、所属組織への忠誠心も強い。
備考:直感が非常に鋭く「ハンター」への適正有りと認める

 

最後の一文の入力を終え、メッセージの送信ボタンを押すまでには僅かに時間があった。

 

 

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