EX EPISODE MISSION02
[魔獣追討]
Chapter: 06 ヘテロドックス
「マーカス。本当に一緒に来ないのか?」
「ああ。ここは俺たちの街だ。俺達の手で守る」
アナデンの自警団に属するガバナー「マーカス」は、バルクアームαを大規模改修した愛機「プロキオンⅡ」の整備をしながら答えた。
計器を操作するマーカスの指が異音を立てる。彼の身体は過去の戦闘で大部分が欠損し、機械化されていた。常人ではアーマータイプの助けを借りなければ持ち上げることすら不可能な部材を軽々と持ち上げ、スナイパーキャノンに取り付ける。
今頃は渓谷斜面に建設した発射場で、自警団の有志達が高高度上昇ブースターの発射準備を進めていることだろう。彼らはそのブースターを使ってプロキオンⅡを高空へと打ち上げ、この地に踏み込んだリバティー・アライアンス共に一撃を加えるつもりだった。
人体とは異なる駆動音が聞こえる自分の肢体。マーカスはこれが嫌いではない。常人を超える運動能力や筋力は、戦うには有用なのだ。しかしこの心はヒトのものだ。かつてリバティー・アライアンスに所属していた彼はこの体が原因で差別的な扱いを受け、それに耐えることができなかった。
「人が人である自由を勝ち取るために」そんな言葉を掲げながらも色々な人間がいる。
「マーカス……、情報体になればいいじゃないか。俺たちと一緒にヴァリアントフォースに行こう」
友人を誘う初老の男の体はマーカス以上に機械に置き換わっていた。脳髄やごく一部の器官が生体部品である以外には、人間として生まれた部分は残っていない。
「ジョゼフ。俺はこの身体に不満がある訳じゃない。人として生き、納得して死んでいく」
自分のことを心配してくれる友人がいる。マーカスにはそれで充分だった。
いつか敵として再開することがあったとしても。
「だから戦場で出会った時に遠慮はいらない。まあ、俺の敵はリバティー・アライアンスの連中だから、お前と戦うことはないだろうがね」
「ふむ、そうか。……達者でな」
二人は機械の顔を歪めて笑い合うと、
そこで道は分かたれた。
「フォクサロイド」
ジョゼフは愛機に登載された人工知能に声をかける。
“KARMA”でも“SANAT代理体”でも無い独自の人工知能。
「目を覚ませ。ここが俺たちの命の賭け所だ。勝って俺は永遠の命を手に入れる」
「月光」
マーカスの声に反応しアーマータイプのコンバットヘルムに“Welcome home”の文字が映し出される。それ以上は何も語らず、ただ自分の出撃する時を待つのだった。