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WORLD ヘキサギアの世界

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EX EPISODE MISSION02
[魔獣追討]
Chapter: 08 ヘテロドックスの協力者

リンクスとフリットの乗ったヘキサギアは、交信の途絶えたショウを探して夜の渓谷を音もなく走っていた。
ショウは哨戒任務中に敵の急襲を受けてしまい、離脱を試みたものの交戦を避けられなかったものと思われた。切れ切れになった報告の中にハイドストームの単語もあり、彼の生死と共に敵ヘキサギアについての調査も必要と判断されたのだった。
暗闇の中、彼らの目前に崖の上の森から落下したと思われる機械仕掛けのヒト型が倒れ伏している。
2機の第三世代ヘキサギアは速度を緩やかに落とし、岩に叩きつけられたヒト型のまわりをゆっくりと回った。ガバナーのセンサーが倒れたヒト型を走査する間、それぞれのヘキサギアが周囲を警戒している。
ショウとの通信が途切れたのもこの辺りだった。

「こいつは、アナデンの自警団か。なぜこんなところに?」
「分からないな」

フリットが白いロード・インパルス“アルバ”から降り、ヒト型のそばに屈んで様子を確かめる。
リンクスのエクスソード・インパルスが崖上に駆け上がると、直前に戦闘があったと思しき痕跡があった。そしてそこには、無残に大破したストームエリミネーターV2の姿もあった。
ショウの姿はない。逃げ延びたか、連れ去られたか。

「リンクス……」

フリットが何を言いたいかは分かっていた。

「まだ息があるようだ。彼を救おう」
「フリット。優先順位を間違えるなよ」

リンクスは薙ぎ倒された木々の間を慎重に進みながら、敵に傍受されないよう短距離通信で答える。

「俺たちの目的はショウの捜索だ。それだって本隊の進発までには戻る条件で隊長に掛け合ったんだ」

樹木や地面に突き刺さった無数の砲弾片。一撃の加害範囲や砲撃痕から榴弾砲の数や大きさを推測する。

「俺はこの目に映る物を護る為に、兵士になったんだ。この人はまだ死んでないし、ここで何があったか話を聞ければ……ショウもまだ死んだとは限らないだろう?」

リンクスはストームエリミネーターV2の残骸を数秒注視し、何かに気付くと軽く呻いて顔をしかめた。

「残念だが、俺たちにそんな時間はない」

戦闘跡の調査を手早く終えたリンクスのヘキサギアが、崖を下りてきてフリットの“アルバ”に並んだ。

「ここの状況を記録したら戻るぞ。そいつのことはアナデンに連絡して引き取ってもらおう。でないと俺たちが置いて行かれるからな」
「この人はもう長くはもたない。いますぐ処置が必要だ」

リンクスはヘキサギアから降りるとフリットの肩を掴んで揺さぶった。

「ヘキサギアにそいつを載せて運ぶつもりか? よせ、この辺りの警戒レベルを忘れたのか?」
「ハイドストームか」
「上にはショウの機体しかなかった。そいつが身一つでうろうろしていたのでないなら持ち去られたとみるべきだ。まだこの辺りで何かしているのかもしれん」

フリットは突然コンバットヘルムを開放して外気に顔を晒すと、リンクスにも身振りでそれを求めた。リンクスは怪訝そうな様子で周囲を見回しながら、コンバットヘルムを開く。
乾いた土と岩と緑、そして薄れつつある硝煙の匂い。
フリットは損壊したヒト型を抱きかかえ、俯きながら小声でリンクスに切り出した。

「……グライフの件だ」
「何の話だ?」

フリットは、出撃前のマーフィーとの会話を打ち明けた。
レイブレード・グライフを使わなければ、ここでの戦闘を切り抜けるはできないという見立て。

「マーフィーはたぶん、使うつもりだ。そのための乗り手に俺を指名している」

自分自身はまだ未熟かもしれないが、だからこそそんな形で英雄にさせられるつもりもなかった。

「まさか、規格外兵装を……レイブレードを使うつもりなのか?」

通信を介さない肉声の会話。その意味。

「そういうことか……分かった」

その言葉に続いて、フリットの頬に衝撃が伝わった。
リンクスにぶん殴られていた。だが、それでいい。
立ち上がったリンクスがエクスソード・インパルスに飛び乗る。

「おまえの好きにしろ。本隊は予定通り進発する。……第4ゲートブリッジまでには追いつけよ」

そう言い残して、エクスソード・インパルスは走り去っていった。

 

「アルバトロス。これで俺はリバティー・アライアンスの任務から外れた脱走兵だ…それでも俺はこの人を救いたい。協力してくれるか?」
『私は君の行動に敬意を表する。その提案に従おう』

 

抱きかかえられたジョゼフ・グラントはただ黙って二人の会話に耳を傾けていた。
情報体をあきらめた訳じゃあないが、リバティー・アライアンスの中にも、また捨てたものじゃない人間もいるのかもしれないな、そう考えていた。

 


 

岩山や木々にうまく隠れるように建てられた外縁監視所の一つ。
フリットは指定されたその場所でジョゼフを引き渡した後、アナデン自警団との会合に臨んでいた。
ブロックベース材で組み上げられた簡素な建物。
武装した兵士たちが周囲を取り囲んでいる。ヘテロドックスらしく思い思いの装備を身に着け、ただ発する雰囲気だけは一様に殺気立っていた。
フリットは、MSGと傭兵契約したヘテロドックスが一帯に浸透していること、ハイドストームがこの地に現れたことなどを説明したが、自警団側の反応は鈍い。

「―――君がジョゼフを助けてくれたという、リバティー・アライアンスの兵士かね?」

突然現れたその人物は、自らをアナデンを取り仕切る立場の一員だと名乗り、謝辞とともに、ジョゼフは損壊した躯体を外され既に医療機械に収容されたと述べた。
直前にジョゼフが語ったところによると、ショウと思われるガバナーと、もう一人、リバティー・アライアンスと契約したヘテロドックスの男が、おそらく生きたままどこかに連れ去られたという。
その人物はフリットに背を向け、自警団員たちに向けて語り始めた。

「みんなよく集まってくれた。リバティー・アライアンスに恨みがある者もいるだろうが聞いてほしい。彼らはここで戦闘したい訳ではない。安全に自分達の支配領域へと帰りたいだけだ。もちろん彼らがMSGから奪ったものを返せばもう少し穏便に済むかもしれないが、そうい訳にもいかない事情も私には分かる」

静かだが不思議と重く響く声。自警団でも広く顔を知られている様子から、アナデンでも上位の役職者というのは本当らしかった。

「我がアナデンは中立を謳うヘテロドックスの街だ。しかしいつの世も争いには巻き込まれる。それは避けられないだろう」
「しかし、リバティー・アライアンスにそこまでの協力など……」

言いかけた兵士を制し、言葉を続ける。

彼の言うハイドストームについては、我々としても早期に対処する必要があり、それは彼の目的とも合致する。それに、彼は我々の同志を救ってくれた恩人でもある」

自警団員たちの視線がフリットに集まる。

「私は―――いや、アナデンは彼に協力し、彼の仲間を救出するのが筋だと考える。同志の命を救ってくれた彼に恩を返す。人としてそれが最大限の礼儀だと考えるからだ」

それで大筋はまとまったと言わんばかりに笑みを浮かべ、両手を広げた。

 

自警団の一人がテーブルの上に地図を表示し、何かを書き込みながらフリットを手招きする。
リバティー・アライアンスにも共有されていない詳細な地形図。要所の記入を目で追って行って、本隊の現在位置まで把握されていることにフリットは驚愕した。
図示されていない拠点や道がまだ無数にあるであろうことも容易に想像できる。
敵の潜伏している可能性の高い場所が順にピックアップされ、自警団員のうち何人かは耳元に手を当てて通信をはじめ、何人かは足早に建物を出ていく。
ショウの機体、ストームエリミネーターV2の残骸が発見された地点から10キロ圏内。
フリットは思いがけない展開―――アナデン自警団の思いがけない協調姿勢に戸惑いながらも、ショウの救出に現実味が出てきたことを嬉しく思っていた。

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