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WORLD ヘキサギアの世界

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EX EPISODE MISSION02
[魔獣追討]
Chapter: 14 ドレッドノート

リバティー・アライアンスの白いヘキサギア「レイブレード・インパルス」が付近で活動しているとの情報がVF内の局地戦術ネットワークに流れた。
規格外兵器レイブレードが使われたという報告はまだ無いが、一部では原因不明の汚染レベル上昇が観測されている。警戒が必要だった。

どうやらリバティー・アライアンス部隊の移動ルート外でも各所で戦闘が起こっているらしい。
中でも、数時間前に起きた小規模な戦闘の中でリバティー・アライアンスとアナデンが接触したことは重要だった。おそらくアナデンの工作は功を奏したとみなしてよいだろう。これでリバティー・アライアンスが第4ゲートブリッジを通過することはほぼ確実となった。

予定通り、そこがこの戦いの最終局面になるだろう。
遠距離砲撃型ヘキサギア「ドレッドノート」のガバナー、ザイツェフは事前に選定しておいた射撃地点へと向かっていた。この作戦における彼の任務は火力支援。橋路上を走行する車列を停止させ、グライフなる特殊なヘキサギアを含む護衛戦力を制圧、あるいは撃破する事である。
月明かりに照らされた道が前方で途切れ、岩と木立に変わっている。
ザイツェフはドレッドノートをゾアテックスモードへとシステムコンバートさせた。
ズン、ズンと、第2世代ヘキサギアのような足取りで進んでいく。ドレッドノートは大型砲のプラットフォームとして機体を組み上げたため、機動性を捨てて射撃安定や反動制御を重視している。

「KV、戦況レポート」

ヴァリアントフォースに属するザイツェフとドレッドノートであるが、機体にはKVと名付けたKARMAが搭載されている。ザイツェフがかつてリバティー・アライアンスに籍を置いていた時からの相棒だ。

『部隊前進中…………警告 不明飛翔体 接近……敵性ヘキサギア 2機』

第4ゲートブリッジ付近を飛行していたヘキサギアの一部がコースを変えてこちらに近づいてくる。
長距離砲撃を旨とするKVのセンサー有効半径は広く、敵側が先に電子的に察知した可能性は低い。
こちらの動きを予測して、橋への砲撃に適した地形を先んじて偵察する意図だろう。
第4ゲートブリッジは遥か地平線の彼方。直線距離で10km以上先。

『敵機、更に増速 接敵まで120秒』

ザイツェフは味方のヘキサギアに連絡するが、位置的に単独で対応せざるを得ない。

「KV、お前は移動と射撃準備に集中しろ。露払いは私が行う」
『了承 移動を継続 ガバナー 祝福』

ザイツェフはドレッドノートの操縦席から出て機体の上に膝立ちになると、巨大なスナイパーライフルを構えて薬室に初弾を叩きこんだ。
照準器の視界に闇夜を飛ぶ小さなヘキサギアの姿を捉える。
まずはゆったりと歩行するドレッドノートの揺動を補正、味方からの観測情報を統合して簡易な諸元を出し、最後に自身に装備した強化レーダーを作動させた。
レーダー波の照射に気付いたらしい敵機が慌てて散開、急降下しようとする。
その動きを追いながら、ゆっくりと引き金を引いた。

 


 

「イグナイト型だ。こっちを狙っているぞ!」

フギン&ムニン」のガバナー、ライヴン兄弟は互いの位置関係を確認しながらすみやかに対地攻撃の態勢に移った。
直接視認できた敵ヘキサギアは少なくとも2機。どちらも陸上を移動しており、他に飛び立ってくる機影もない。
その中で長距離の射撃能力を持つものは1機と思われた。

「わかってるよ、兄貴!」

ムニンに搭乗する双子の弟はそう答えると、敵の射線を回避しつつオートマチックグレネードランチャーを連続で放った。

「———こちらライヴン、敵のヘキサギア2機を発見。うち1機が長射程の自走砲型と思われる。ただちに阻止攻撃に移る……」

 


 

飛来する攻撃を察知したKVが能動的に向きを変え、避退行動に移行する。

『提案 連携』

KVの提案。敵編隊の息の合った対地攻撃に対して、ザイツェフだけではしのぎ切れないと判断したからだ。
ザイツェフの狙撃も高速で飛行する相手には牽制程度にしかなっておらず、このままでは任務に支障が出かねない。

「了解だ。片付けるぞ」

ザイツェフはドレッドノートから飛び降りると、機体後部に格納してあったクロスレイダーを下ろした。旧式の第一世代ヘキサギアだが、ドレッドノートよりも軽快で速度も出る。

「来るがいい。どちらの連携が上か見せてやる」

 


 

「そのでかい図体で避けきれるものかよ!」

ムニンのガバナーは思い切って低空から急接近し、ドレッドノートに向けてプラズマキャノンを放つ。第三世代とは言えドレッドノートは俊敏には動けない。紫色の雷光が地面で弾け、前脚の装輪を焼いた。

「いいぞ、まずはやつの足を止めろ。それから集中砲火で仕留める」

フギンに搭乗する兄は、近くの崖上に陣取った狙撃手の影を視界に収めながら弟へと言い放つ。

「言われなくてもそのつもりだよ!」

ムニンは反転して更に攻撃を重ねる。ドレッドノートの前後に一発ずつ着弾し、移動速度が目に見えて低下していく。
崖上からこちらに射撃を繰り返していたイグナイト型が、慌てたようにクロスレイダーに飛び乗って走り出した。リアタイヤを浮かせて急ターンし、ドレッドノートへとまっすぐ向かっていく。

──これでおびき出されるか。甘いな。
フギンも低空に降下してクロスレイダーの背後につけると、チェーンガンの掃射で追い立てる。
夜闇を利用して巧みに射撃を遮り、道なき道を走っていた二輪車の姿が不意に視界から消えた。

「兄貴、次でやつの足は止められ──」

その時ムニンはドレッドノートの直上に差し掛かろうとしていた。
と、突然目の前にクロスレイダーが飛び出す。
極度の緊張感に引き延ばされたような時間感覚の中で、振り上げられた銃口がゆっくりと狙いを定めると、轟音と共に放たれた大口径の銃弾が、黒く塗られた装甲ごとガバナーの肩口を吹き飛ばした。
フギンに乗る兄が警告を発する暇もなかった。ドレッドノートの砲身をジャンプ台代わりに空中に飛びあがったザイツェフが、ライヴン兄弟の一瞬の隙を突いたのだった。

「ムニンッ!」

墜落していく弟の元へと急ぐフギン。しかし全てを予測していたかの様にすでに墜落地点を指向している巨砲があった。その場所はドレッドノートの無慈悲なキルゾーンだ。

「後は任せた」
『了承。零距離水平 射撃開始』

大口径電磁投射砲「アースシェイカー」が放たれると、ザイツェフは闇夜に立ち上る爆煙を横目にクロスレイダーを止めた。

 


 

ザイツェフは機体の損傷を確認し、味方のヘキサギア部隊へ状況を連絡していた。

「こちらドレッドノート。装輪をやられた……。移動の時間が惜しい。現在地から砲撃を開始する」

ドレッドノートが足先のパイルを地面に突き立て、長い砲身を持ち上げていく。

『弾種:榴弾 曵火射撃。同地域の気象データを取得。地図を更新。弾道を計算中』
「「ソニックレイブン」、間接照準射撃を行う。着弾観測と効果測定を頼む」
「了解した。こちらは作戦空域上空だ。敵部隊の第4ゲートブリッジ進入は既に確認している。直ちに砲撃を開始されたし」

 

「……仕留め損ねた事も忌々しいが、これはしてやられたか……」

ザイツェフは爆轟をくぐり抜けた2機の飛行型ヘキサギアがふらつきながらも飛び去っていった方角を睨み、ひとり呟いた。

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