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WORLD ヘキサギアの世界

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EX EPISODE MISSION02
[魔獣追討]
Chapter: 16 第4ゲートブリッジの死闘

「あれが第4ゲートブリッジ……すでに戦闘が始まっているようだ」

フリットの言葉にアナデンの連絡役が答える。

「ああ……できればこうなる前に送り届けたかったが、君らの部隊の移動も、ヴァリアントフォースの展開も、どちらも予想より早かった」

星空の下、遠く地平線の辺りに瞬く交戦の光と、微かに響く砲声。
ここからでも列をなして橋の上を走行するトランスポーターのシルエットが確認できる。 しかし、それは今この瞬間も護衛の部隊が敵の接近を防ぎ続けているからこそであり、それがいつまで保つかという保証は無い。
コンバットヘルムの映像の一部を拡大表示してみる。
橋の周囲では車列に沿って榴弾の空中炸裂が断続的に続いている。爆発の火球や灰色の煙が舞い、その間を縫ってプラズマキャノンと思しき紫電が撃ち交わされている。
廃工廠でのあの戦闘から数時間を経て、フリットはすぐにでも駆け出したい衝動に駆られるが、現地までの間に横たわる幾つもの山渓を今から走破していくのでは、いかに俊足を誇るロード・インパルスといえどもまず追いつく事は出来ない。だからこそ、空中輸送が可能な飛行型ヘキサギアの力を借りることになっていた。

「あそこまで本当に行けるのか?」
「志願した者がいる。自警団の兵士ではないが、信頼できる男だ」

連絡役の声に、大型のエアマニューバスラスターの音が重なる。
見上げると上空にヘキサギアが近づいてきていた。採掘救助用ヘキサギア「ウォールバスター」だ。
強烈なダウンウォッシュをまともにうけ、フリットは思わず顔を庇う。

「あんたが例の、リバティー・アライアンスの兵隊さんかい?」

着陸したウォールバスターから下りてきた男が声を掛けてくる。

「ご協力に感謝します。私はフリット・バーグマン」
「ザック・ザザックだ。ザックでいい」

ウォールバスターの周りに自警団員が集まる。ウィンチからワイヤーが引き出され、ロード・インパルス“アルバ”の各所から伸びる吊下ワイヤーの結節点へと連結されていく。

「戦闘状況下への低空進入、空中投下だ。かなり荒っぽいことになるぞ」
「宜しくお願いします」

 


 

トランスポーターを掩護するために崖上から狙撃していた「ロックフォーゲル」に対して、ヴァリアントフォースの「ソニックレイブン」から対地用焼夷爆雷が投下された。暗い木立に次々と火の手が上がる。
ロックフォーゲルのガバナー「ヘンリー・ライルハート」は焦りを感じていた。

「これ以上狙撃は無理か……移動するぞ」

ロックフォーゲルは無人給弾ポッドからありったけの弾薬を機体に移すと、ゾアテックスモードにシステムコンバートする。エアマニューバスラスターで煙と炎を巻き上げながらふわりと浮き上がった大型ヘキサギアの姿は、黄色と黒色の警戒色も相まって獰猛なスズメバチによく似たものとなっていた。
空から見渡すと、複雑な地形の上を直線的に貫く巨大な構造物がよく見える。

第4ゲートブリッジ。平均高25m、路幅33m、総延長400kmにも及ぶ大高架橋だ。その上をアースクライン・バイオメカニクスのエンジニアやオールイン・ジ・アースの残骸を収めたトランスポーターが列をなして走っている。その中には未だ眠り続けるグライフもいる。
少しでも敵の接近を阻まなくてはならない。その間にも橋の上では敵の砲撃が次々と炸裂していた。榴弾を空中で炸裂させて爆風と砲弾片を広範囲に浴びせる曵火射撃は、トランスポーターのような非装甲目標にとっては非常に厄介だ。

「あの砲撃には観測手がいるはずだ。そいつを抑えに行く。ヴェスパ、ウイングジャマーを使うぞ」
『任せてください』

行動を開始したロックフォーゲルの背後にソニックレイブンと「レッドシザー」が追いすがり攻撃を仕掛ける。しかし放たれたマルチミサイルはロックオンを強制的に解除され、あらぬ方向へと飛び去る。ロックフォーゲルはエアマニューバスラスターから青い励起光の尾を引き加速すると、機体を旋転させレッドシザーに肉薄しテイルスティンガーを突き立てた。
目まぐるしい空中機動のさなかでライルハートの視線が下方に向いた瞬間、車列の上で弾幕を張り続けるトランスポーター直掩部隊の姿が目に入る。

ヘーゲルのバルクアームα」「エイド・ケラトプス」、そして「ライトビースト」だ。
ライトビーストが迎え討つのは橋上を後方から接近してくるモーター・パニッシャーの部隊。バトルライフルの弾丸が命中するたびに、路上に墜落して転がりながら闇夜に消えていくが、如何せん数が多い。弾幕をくぐり抜けた一機が車列に追いつき、後席に座るセンチネルがロケットランチャーをトランスポーターへと向ける。すかさずカバーに入ったエイド・ケラトプスの掃射がそのモーター・パニッシャーを撃ち落とす。正に一進一退の攻防が続いていた。
既にトランスポーターに直接取り付いたモーター・パニッシャーもおり、車上でも熾烈な戦闘が繰り広げられている。中には敵味方の砲火に晒されて頭楯部だけになりながら外装を食い切ろうとしている個体すらいる。

各機体の武器弾薬はまだ充分にある。だが橋に上がってからの激しい戦闘は、着実にガバナーを疲弊させつつあった。その上、繰り返し頭上で炸裂する榴弾が更に圧力を掛ける。弾着がある程度散っているためまだ致命的な被害は出ていないが、いつ車列が停止してもおかしくない状況だった。
マニピュレーターに砲弾片の直撃を受けてバトルライフルを取り落としたライトビーストは、転がってゆく銃器に一切の執着を見せず即座にゾアテックスモードへとシステムコンバートした。四足獣となったライトビーストは先ほどまでの冷静な射撃とは打って変わって車列の上を跳び回り、外装に取り付いたモーター・パニッシャーを引き剝がして回る。
夜空に見慣れない機影が現れた。モーター・パニッシャーに気を取られていた弾幕が慌てて射線を振り向けるが間に合わない。

ガーデンステア

それは高速で飛来すると空中で姿を変え、カマのような武器を持ったヘキサギアとなってトランスポーター上を強襲した。マシンキャノンをヘーゲルのバルクアームαの背に撃ち込みながら、同時にエイド・ケラトプスへと斬りかかる。
車列を跳んで駆け込んできたライトビーストのHVクローをウインドサイズが受け止める。ガーデンステアが無機質な頭部センサーを傾げ、ライトビーストの操縦殻の位置をじっと凝視する。
イヤな予感を感じたライトビーストが飛び退った直後、その場を横薙ぎにモーター・パニッシャーが擦過し、続いて他のモーター・パニッシャーも次々に飛び掛かってきた。
運良く初手を躱したものの、数で圧倒する敵をいつまでも捌き続けるなど不可能だ。死角から突入してきた一体に組み付かれて転倒すると、すぐさま全身を多数のバイティングシザースとグラップルブレードが襲う。もはや身を丸めて耐える以外に出来る事は無く、フレームは捻じ曲げられ装甲が引き剥がされてゆく。
ついには操縦殻の装甲ハッチがむしり取られ、ガバナーが剥き出しになった。
近付いてくるガーデンステアを、ヘーゲルのバルクアームαが手にしたバズーカの連射で追い払う。ガーデンステアは爆轟の向こうに姿をくらましたが、撃破の手応えには程遠かった。
ヘーゲルのバルクアームαはバールのような格闘武器を使ってライトビーストの機体からモーター・パニッシャーを引き剥がす。しかし彼の愛機もまた満身創痍であった。機体の表面には砲弾片が無数に突き刺さり、グラップルブレードによる爪痕は数えきれない。
一つ後ろのトランスポーターではモーター・パニッシャーの後席から飛び降りたパラポーン・センチネルが外扉を銃撃して侵入を試みている。
橋上での攻勢が始まってほんの数十分、未だその手が緩む気配は無い。

クリムゾン・クロー」は最後尾のトランスポーターに陣取っていた。このトランスポーターはコンテナを遺棄してトレーラー台車のみを曳いており、その後端で文字通りの後衛を務めている。
クリムゾン・クローは突進してくる「ブル・タスク」を迎え撃つべくスパイラルクラッシャーを振りかぶった。碑晶質製のブレードは瞬時に超高温まで達し、高速回転する。
勢いよく叩きつけられたスパイラルクラッシャーはブル・タスクの装甲へとめり込んだ。ダメージはあったはずだった。しかしブル・タスクはバタリングタスクとテンタクルノーズを使ってクリムゾン・クローを力任せに押さえ込むとトランスポーターの上から引きずり下ろす。

「バッッッカ野郎ぉ! こんな所に置いてかれてたまるか!」

転落したクリムゾン・クローは路面を激しく転がりながらもスパイラルクラッシャーで拘束を振りほどく。立ち上がりざまに換装したばかりの脚部大型無限軌道でブル・タスクを蹴り飛ばし距離を取ると、その勢いのまま後進を開始、置き土産とばかりに残弾の寂しくなったミサイルを全弾斉射した。ブル・タスクと付近のモーター・パニッシャーどころか、クリムゾン・クロー自身まで巻き込まれそうなほどの爆炎が起こるなか、急速ターンして炎に追われるように橋上を疾走し、命からがらトランスポーターへと復帰を果たした。

「やっぱ“第一世代”のパーツは頑丈だぜ! 命を預ける機械はこうでなくっちゃな!」

車列の先頭では、ICSを展開してひた走る「鎧麒麟」が至近で炸裂したグレネードの爆炎を受け止め、干渉光で眩く輝く。
鎧麒麟は高い防御力と機動力を誇る大型の第三世代ヘキサギアだ。上空からの攻撃をチェーンガンで牽制しつつ前面の盾となる。双角のように配置された二本のバイティングシザースを勢いよく振り下ろすとモーター・パニッシャーが弾き飛ばされる。しかし敵の数は一向に減る様子がない。

「これもヴァリアントフォースの戦い方、か……」
「ああ、こうも短時間で防衛が破られるとはな。「バルクアーム・フェンサー」、前に出るぞ! 何かあったときは置いていけ!」
「なにがなんでもトランスポーターに近づけさせるな! 全砲門解放!」

最前列のトランスポーターの上で、「アイアンハーミット」は正面から突入してくるモーター・パニッシャーを迎撃する。運転室を狙いグラップルブレードを大きく開いて突っ込んでくるモーター・パニッシャーは、それ自体がある種の誘導兵器だ。撃ち落とせなければ高確率で車列全体が破滅することになる。
アイアンハーミットはミサイルと銃弾の雨を放った。
第4ゲートブリッジは硝煙弾雨がたなびく地獄のような様相であった。

 


 

「リバティー・アライアンス……お前たちさえいなければ」

マーカスは打ち上げの最終確認を急ぐ。今こそ用意していた高高度上昇ブースターを使う時だ。
プロキオンⅡ」の機体を結合したこの巨大なこのブースターは、旧時代に製造された人工衛星打ち上げ用ロケットを整備し改良したものだ。そして武装には、こちらも長大なスナイパーキャノンを選択している。

高空に打ち上げて、高高度から地上を狙撃する。

「確かに無謀な……馬鹿げた作戦だが……」

カウントダウンが一つずつ減っていく。

「命の賭け所としては、悪くない」

やがて眩い光と轟音、雲のような白煙が渓谷斜面の発射台を満たし、プロキオンⅡは夜空を遡る一筋の流星となった。

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