EX EPISODE MISSION02
[魔獣追討]
Chapter: 17 覚醒レイブレード・グライフ
第4ゲートブリッジに程近い渓谷。
縦横に走る谷間に身を隠すように飛行する「ウォールバスター」のコクピットでは、ガバナー「ザック・ザザック」の長い独り語りが続いている。離陸してからの落ち着かない沈黙を紛らわせるように始まったそれが、戦地の空気がもたらす緊張のためか、それともそれぞれの属する勢力の行く末を憂慮してのことかは当人にも分からない。
「第4ゲートブリッジってのは元々は重質量物搬送の高速鉄道、それも超電導磁気浮上式とかいう奴だったらしくてな。大昔は鉱物の輸送から、果ては結晶炉の建設事業まで……ま、色々と便利に活躍していたらしい。要はあちこちの都市の地下を走っているようなあれの拡大版ってところだな」
フリットはザックの声を黙って聴きながら、愛機の状態を注視していた。
目立った損傷こそないものの、ヘキサグラムのエネルギー残量はまだ落ち込んだままで、じりじりとしか上昇しないゲージを睨む。フリット自身にしても短い休息の間に栄養ブロックの固形食を口にしたのみであり、充分に回復したとは言い難かった。
「……だが結晶炉の建設が一段落したところでここらにも戦争が飛び火したらしくてよ。整備と運航のリソースが減らされると機械ってのはあっという間にヘソを曲げちまう。しまいにゃ火事場泥棒の連中が当時のコイルをほとんどかっぱらって行っちまって、戦争のどさくさもあってその頃には製造も保守も“失われた技術”ってヤツになってた。それで何代か前のアナデン統領が旗振り役になって、軌条の上に舗装を敷いて車道にしたって訳だ」
フリットは深く息を吐くと、かぶりを振ってコンバットヘルム内の表示を脇に寄せた。
本隊の戦況はまったく楽観できるようなものではなく、あのヘキサギアを動かせるガバナーを必要としていた。僅かでもいい、今は心身の回復に努めなくてはならない。
緊張を解く事は出来ないが、強張っていた肩の力を少しだけ緩める。
「……だから橋脚や橋桁の構造物は昔のまま、これくらいの戦闘じゃびくともしねえ。あれ以外にもここいらには古い隧道やら山体をくりぬいた空間やら、そういった産業遺跡がごろごろある。ちっと歴史ある土地ならだいたいどこもそうなんじゃねえかな……」
この地へ来てから目にした様々な地勢や人々の様子を思い起こす。
そうしてザックの話を聴くでもなく流れる景色を眺めていたフリットは、唐突に開けた視界によって過酷な現実へと引き戻された。
「砲撃が止んでいる今がチャンスだ。あの車両の上に落とせるか?」
フリットはロード・インパルス“アルバ”を吊り下げているウォールバスターに無線で告げる。
上空から改めて俯瞰する橋上は、予想以上に危機的な状況に陥っていた。
弾幕による防衛はとっくに破れ、モーター・パニッシャーがトランスポーターのあちこちに取り付いている。今もまた車列の中ほどを走る一両から激しい火が出て、燃える車輪が外れて転がっていった。
「俺がグライフに乗れば……この状況を覆せるっていうのか? マーフィー……」
フリットの呟きに呼応するようにウォールバスターが機体を翻して降下し、橋路の上に差し掛かった。
ワイヤーで吊られたロード・インパルス“アルバ”が振り子のように勢いよく空を薙ぐ。見当をつけておいたトランスポーターの上に狙い通り着地するかと思いきや、駆け抜けざまに何かに群がっていたモーター・パニッシャーの一群を弾き飛ばし、再び宙へと蹴り上がる。
反動でウォールバスターが大きく揺れて傾いた。
「ヘーゲル! 聞こえていたら掴まれ!」
モーター・パニッシャーに取り付かれ、今にも解体されそうになっていた「ヘーゲルのバルクアームα」はアイアンフィストを伸ばし、再び巡ってきたロード・インパルスの前脚のロールバーを握った。倒れていた機体が引き起こされ、足先がトランスポーターを離れる。
「ザック! 上昇してくれ!」
「おい、あまり無茶をするな! こっちのブームはいいが、ワイヤーが保たんぞ!」
ザックから苦言が飛ぶ。急な荷重の増加に、黄色い機体が不安定にふらつく。
「こ、ここで落とさないでくれよ!」
ヘーゲルもまた危地を助けてくれたことには感謝しつつも、フリットの無鉄砲に対しては不安な声を漏らす。
「このまま最前列のトランスポーターまで……っ、離れろ!!」
フリットの言葉は半ばで途切れ、ロード・インパルス“アルバ”はヘーゲルのバルクアームαを近くのトランスポーターに向かって勢いよく蹴り飛ばした。
ロード・インパルス“アルバ”はその反動を利用して軌道をずらし、背後からバイティングシザースを大きく開いて迫っていたモーター・パニッシャーの攻撃を回避する。しかし度重なる負荷に限界を迎えたワイヤーがとうとう破断し、橋の外の中空へと投げ出されてしまった。
突然襲う浮遊感と眼下の闇に、フリットの脳裏に絶望がよぎる。
だが次の瞬間。
「こっちだ!」
予期せぬ方向からワイヤーキャスターが飛来した。
「ウェイナーか!?」
フリットは咄嗟に伸ばした右手にワイヤーを掴むと、左手で操縦席のロールバーを渾身の力で握り締めた。
ギチッッ……!
「う……、くぁっ……!」
両腕が引き千切れそうになりながらも決して手を離さず歯を食いしばる。
「アビスクローラー・ガーレ」のワイヤーキャスターが続けざまに射出され、第4ゲートブリッジの橋脚まで届く細い足場を作ると、ロード・インパルス“アルバ”は獣のしなやかさでワイヤー上に着地した。衝撃をグラビティ・コントローラーで軽減させ、大きく揺れるワイヤーの上でバランスを取る。
第三世代ヘキサギアだからこそ可能な離れ業だった。
「くっ、腕が……」
両腕の痛みに呻きながら操縦桿を握りなおす。数秒とはいえ、落下するヘキサギアの重量をガバナーの腕だけで引き留めたのだ。無理もなかった。
その苦痛に耐えながら機体をワイヤー伝いに巨大な橋脚構造に駆け寄らせると、夜空に飛び去って行く黄色い採掘救助用ヘキサギアが見えた。
「一気に橋に上がれ! 俺たちが掩護する!」
そういうとウェイナーの「ボルトレックス・リヴァーレ」はプラズマキャノンを構える。その横では複数のヘキサギアがアビスクローラー・ガーレを掴んで支えていた。
「アルバトロス、グラビティ・コントローラー全開だ!」
ロード・インパルス“アルバ”は四肢先端に搭載されたグラビティ・コントローラーの全てを起動すると、獅子の爪を想起させる足先を橋脚の側面にめり込むように吸着させながら橋上を目指して駆け上っていった。
渓谷から打ち上げられた高高度ブースターは順調に上昇を続け、高度は既に1万メートルに達しようとしていた。
「カウント終了……次フェイズに移行……」
びりびりと震える暗い操縦殻の中でマーカスが一人呟く。
「プロキオンII」は計画高度まで到達するとブースターから離脱し、慣性による弾道飛行へ移った。
激しい振動をともなう轟音から一転、機体が切り裂く風鳴りの中で眼下に広がるのは地平の向こうから照らし出された大地の雄大なシルエット。
だがその絶景でさえも、憎しみに燃えるマーカスの心を捉えることはない。
大型のスナイパーキャノンを構えて狙いを定める。遠すぎて直接照準などできるはずもなく、第4ゲートブリッジからの観測情報だけが頼りだ。
データを一つずつ、丁寧に入力していく。
「第一射……!」
積年の憎しみを込めてトリガーを絞る。仇敵を目前にして爆発する怒りに加速されるように、致命的な一撃が撃ち出される。
発射された誘導砲弾は10数秒を掛けて大気圏内を飛翔し、正確に車列の先頭を走るトランスポーターを貫通すると橋桁に深く突き刺さった。橋路の舗装が一斉にめくれ上がり、粉々になって吹き飛ぶ。衝撃で跳ねあがった車体は二つに折れながら一瞬倒立し、それからゆっくりと横転した。
コンバットヘルム越しに響く振動。轟音。続いて何か大きなものが倒れる音。
横倒しになった巨大なトランスポーターが煙を吹きあげ、第4ゲートブリッジの路幅を半分ほども塞いでしまっている。
後続のトランスポーターが次々に急制動を掛ける。
「駄目だ……止まるな!」
言っても遅い。それでも言わずにはいられなかった。
「エクスソード・インパルス」は停止した車列に向かって集まり始めた敵を牽制する。
ガバナー「リンクス」の焦燥に反して活動限界が近づくエクスソード・インパルスの動きは鈍い。機動力を活かして橋路を走り回り一撃離脱を繰り返していたが、徐々にダメージが蓄積し、その力も衰えつつあった。
「バルクアーム・フェンサー」が大盾を構えて、横転したトランスポーターから脱出してくる者を守っている。空中に投げ出された「アイアンハーミット」は、何とか体勢を立て直すと再び火力を吐き始めた。だが前方を走っていた「鎧麒麟」が孤立している。
天を仰ぐと、星明りとは異なる白い光が再び流れる。
もはや次弾を防ぐ手立てはない。これで全て終わるのだと悟り顔を伏せたリンクスだったが、いつまでも訪れない着弾の衝撃と周囲を包む干渉光に気づき再び空に目を向ける。
そこには見慣れた、しかし常とは様相の異なる光の盾が彼らを守る様に展開していた。
「リンクス。悪い、遅くなったな……!」
フリットのロード・インパルス“アルバ”がICSを幾重にも重ねて重層展開していた。
「フリットか?」
ICSは本来、運動エネルギー兵器の攻撃を完全相殺するほどの能力は備えていない。ましてこれほどの威力を持つ攻撃なら尚更不可能だろう。しかしフリットは局限した効果範囲を多数重ねて並べることで、高密度の縦深防御を実現していたのだった。
エネルギーを急激に消耗したロード・インパルス“アルバ”が、トランスポーターから崩れ落ちる。
「フリット! 大丈夫か!?」
エクスソード・インパルスは残り少ないエネルギーを振り絞って駆けよると、近づいてきたモーター・パニッシャーをバスターソードで斬り払い、橋の外へと追いやる。
「……フリットを収容しろ。動けるものは手を貸すんだ!」
後方のトランスポーターからマーフィーの声が響きわたる。
「俺たちが掩護する。……いけ!」
エクスソード・インパルスは側頭部のブレードに荷電すると姿勢を低く構えた。
「さっきの借りは、返しとかないとな」
黒煙を割って作業用アームを引きずりながら姿を現したのはヘーゲルのバルクアームαだ。
「やれやれ……。どうやら今回は大赤字だな……」
低空を横切る「ロックフォーゲル」がフレアスモーカーを焚いて車列を覆い隠した。
長距離砲撃の使い手は上空の射手だけではない。先ほどまで榴弾の曵火射撃を雨のように降らせ続けていた敵もまだ機を窺っているだろう。
後方では車列に追いついてきた「ブル・タスク」が再び「クリムゾン・クロー」と激突していた。
状況は変わらず一刻の猶予もない。
フリットはエンジニアたちによってロード・インパルス“アルバ”から引き離され、マーフィーのいるトランスポーターへと担ぎ込まれた。
「アルバトロスのKARMA筐体をここへ!」
マーフィーの声が大型のトランスポーター全体へと響く。フリットは初めて聞くマーフィーの険しい声音に、状況の逼迫を改めて悟る。
乱雑に散ったコンテナの一つに座らされたフリットはエンジニアたちにアーマータイプの一部を取り外され、装備をポーンA1から「ナイト」へと変更されていく。医療機器が引き出されてきて、投薬チューブがアーマータイプに繋がれた。されるがままのフリットは、ふと何者かの視線を感じて顔を上げた。
視線の主はグライフ。フリットを見下ろすかのように鎮座するその躯体に、相棒「アルバトロス」の筐体が嵌め込まれていく。
結局おまえが乗るのか……。
そう言われているような気がした。
前任者のような適性は俺にはない。それでも今、おまえのガバナーは俺だ。
被せられたナイトのコンバットヘルムが接続され、アーマータイプが再起動を始める。
膨大な更新データの奔流がディスプレイを埋め尽くしては去っていくが、そのほとんどは視界を滑っていくだけだ。フリットの視線は片隅に小さく表示される戦域レポートだけを見つめている。
震えの残る手を、拳の形に握りしめる。
「やるなら……早くしてくれ。……時間がないんだ」
山間からの砲撃が再開される。
曵火射撃を繰り返していた敵ヘキサギアは場所を移動したのか、先ほどまでの曲射ではなく高速徹甲弾を用いたもっと低い弾道の射撃に切り替わっていた。
その砲火に対して、自らを盾として立ち向ったのは大型ヘキサギア「鎧麒麟」である。高速で飛来する砲弾により装甲板が弾け飛び、衝撃で巨体が大きく揺らぐ。防御に特化しているとはいえ、第三世代の機体にどこまで耐えられるか。
だが、今退くわけにはいかない。負傷者を残った車両に収容し、再び隊列が走り始めるまで守り切らなければならないのだ。
側面の隙を突いて再び襲い掛かってきた「ガーデンステア」の斬撃をバイティングシザースで受けつつ、逆にそのまま本体ごと締め上げると新たな装甲代わりとばかりに射線方向に掲げる。
「次から次へと……」
「くそ!!」
エクスソード・インパルスがコンテナ上に四肢を突き立て、衝撃に備える。
バスターソードを盾代わりに砲弾を受け流そうとするものの、機体ごと弾き飛ばされ路面に叩きつけられた。辛うじて逸れた砲弾がトランスポーターの端を削り去る。
「さっさと出てこい、馬鹿が……」
機体から投げ出されたリンクスの身体が路上に転がる。
視界が赤い。脇腹が熱い。アーマータイプの中に生温かいものが染み出していく。緊急救命装置が作動して傷口の圧迫を始めたのが分かった。
夥しい出血により、意識が徐々に暗転していく……。
状況はまだはっきりしないが、先頭車両を潰したアナデンの射手はかなりの気の利いた手際だった。これで目標物———オール・イン・ジアースの残骸を破壊することなく回収できる目算も立つ。車両ごと接収できれば事後処理も早く済むことだろう。
「奴らの足は止まったとみて良いな。こちらはまだ稼働している敵機を狙う。引き続き周囲の警戒は任せたぞ」
ザイツェフからの通信を受けて「メイルクラッシャー」はビークルモードからゾアテックスモードへとシステムコンバートする。「ドレッドノート」の直掩が彼の任務だ。情勢が見えてきた今、警戒態勢も変える時だった。
リバティー・アライアンスの連中が投降しないのであれば、ここから先は白兵戦になるだろう。だとすればドレッドノートの次の役割は残る敵ヘキサギアをできる限り撃破し、歩兵部隊による橋上の制圧を支援することとなる。どの車両にジアースの残骸やレイブレード・グライフなる機体が積まれているか、未だに分かっていないのだ。
先ほどから執拗にこちらの砲撃を阻み続けていたヘキサギア、鎧麒麟が倒れたエクスソード・インパルスとトランスポーターの正面に立ち、今一度ICSを全開する。
バルクアーム・フェンサーも再び大盾を構えて、車両周辺で負傷者の救出を守っていた。
彼らだけではない。周辺の生き残ったヘキサギアが続々と集結し、身を挺してある一両のトランスポーターの防御を固めにかかる。
「つまり……そこが魔獣の揺り籠というわけか?」
遠い橋上に集まるヘキサギアやパラポーンの知覚を合成した視界を観察する。
金属の割れる音、フレームの歪む音が幻のように響く。命がひとつ、またひとつと消えていく感覚が伝染する。くずおれた鎧麒麟からガバナーが脱出する。彼は横たわったまま身動きしないエクスソード・インパルスのガバナーを抱え上げようとしていた。
ザイツェフはその様子に照準を重ねながら、淡々と次の砲弾を装填する。
「私は戦い続けるために情報体になった。お前たちも……足掻き、戦いを続けたいというのであれば情報体になればいい」
残弾も残り少ない。連続で射撃を続けた電磁投射砲の負荷と過熱も無視できなくなってきている。
砲身が不穏な放電をまとい始めると同時に、周囲が奇妙なほど静まり返る。
「チャージ完了……チェックメイトだ」
ドレッドノートの大口径電磁投射砲アースシェイカーが放たれた。
「これで終わりにしてやる……!」
怨嗟の咆哮がプロキオンIIの操縦殻内に反響する。マーカスの憎しみと同期したスナイパーキャノンが、三たび遥かな地平線へと殺意を注ぐ。
距離も高度もそろそろ限界だった。この一発が彼に許される最後の砲撃になるだろう。
「マーカス! もうやめるんだ……これ以上は必要ない!」
ノイズ混じりのジョゼフの声が通信機から聞こえる。MSGに渡ったはずのジョゼフの声が、アナデンの「モーターピジョン」を中継して届いている。
「もう決着はついた。あとはヴァリアントフォースの掃討部隊に任せておけ。これ以上は第4ゲートブリッジの被害が無視できなくなるぞ!」
「ジョゼフ、言ったはずだ。俺は……俺を否定したリバティー・アライアンスに容赦しない」
マーカスにとって、この世界に信じられるものなどすでにない。これから身を委ねるMSGヴァリアントフォースはおろか、アナデンの仲間のことさえ心から信用しているわけではないのだ。
「さらばだグライフ。リバティー・アライアンスと共にここで死ね」
別れの言葉と同時に放たれた最後の砲弾が、遠く地平線の彼方へと緩やかな曲線を描いて吸い込まれていく。
突如、橋上の全てを呑み込むかのように蒼く眩い光が夜の闇を吹き払った。
一瞬の後、周辺に轟音と共に灰煙が舞い上がり、砕け散った雑多な破片が降り注ぐ。
『警告:汚染環境センサーの数値が基準値を大きく超えています。いますぐこの場から……』
「総員、防護服を着用! キャビン内に退避しろ!」
「負傷者の収容を急げ。指揮車の作戦室も使っていい!」
飛び交う怒号と立ち込めた煙を内側から刺し貫く様に放射状にあふれ出す危険な輝き。リンクスたちを護ったのは、動き出したレイブレード・グライフが打ち振るう一対の光の大翼だった。
「オーバーレイウイング……!」
碑晶質に実験的な加工を施した、巨大な翼状の複合兵装。その風切り羽の位置には、輝く「光の剣」が備わっていた。規格外兵器「レイブレード」の生み出す強烈な熱と電磁波を特異な紋様を持つ碑晶質よって偏向、発生した巨大な励起光の翼を交差させ広大な遮蔽フィールドへと変換しているのだ。
レイブレード・グライフは万全ではない。ガバナーであるフリット自身も過去に搭乗してきた他のガバナーに比べて適性は低い。それでもこの状況を打破する為には出撃する以外に選択肢はなかった。
『ヘキサグラム崩壊率3……5%、各部システム、推定値内で作動中』
報告するアルバトロスの変わらぬ声に安堵する。
『ゾアテックス発現、正常。機体構造に不明な機能群を確認。機体が接続を求めています』
フリットの眼は、抜け殻のように横たわるロード・インパルス“アルバ”を見ていた。白かった機体は焼け焦げ、土埃にまみれている。
この戦闘が終わったら、きれいに整備してやるからな。
「ここで……終わらせる」
呼吸を整え、新たに身にまとったアーマータイプ:ナイトのセンサーに光が宿る。
レイブレード・グライフは鉤爪の前脚を力強く踏み込むと天に向かって高らかに咆哮を上げる。
その姿はまるで巨大な鷲獅子を想起させるものであった。
「フリット・バーグマン、レイブレード・グライフ。戦闘を開始する!」