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WORLD ヘキサギアの世界

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EX EPISODE MISSION02
[魔獣追討]
Chapter: 19 残月の霹靂

「奴が起動しただと!?」

事態の急変を察知したザイツェフだが、身に沁みついた流れるような装填のリズムは崩れない。
第4ゲートブリッジの車列へ向けて執拗な火力投射を続けている「ドレッドノート」は、車列の移動に合わせて射界が拓く地点へと移動していた。現在地は車列から約3000mにまで接近した丘陵地帯。周囲には小高い丘や木々の疎らな森が点在し、星明り以外は夜の闇と静寂に包まれている。この距離、この立地が高速徹甲弾による直接砲撃を可能としていた。
だが遠い地平を見渡す照準器越しに、仄かに瞬く忌まわしくも青白い励起光を捉える。

「レイブレード・グライフ」が起動したのだ。

敵ヘキサギアよりもトランスポーターを優先して攻撃すべきだったかと悔やむがもう遅い。
趨勢が変わる予感がする。

「弾種そのまま。続けて撃て!」

電磁気を伴う砲声が立て続けに轟く。
橋上のヘキサギアやパラポーンの知覚情報を合成した視界の中で、青く発光する翼のシルエットに砲弾が吸い込まれ、消えた。巨大な第三世代ヘキサギアがふわりと空に舞い上がる。
続く砲撃はかすりすらしない。グライフは多数のモーター・パニッシャーを引き連れたまま不規則な螺旋の軌跡で射線を翻弄しつつ上昇、高度100mほどに至ったところで水平飛行へと移行した。
その飛翔は明らかにザイツェフを指向し、互いの視線が交錯したかのような錯覚を覚える。

「KV、弾種を榴弾に! 対空射撃用意! 「メイルクラッシャー」、見ているか?」
「魔獣が動き出したようですね。やるのですか?」
「ああ。だがこの機に乗じて仕掛けてくるやつが他にもいるかもしれん」

『弾種変更:榴弾。近接信管調定。初速変更。高射砲運用に移行』

ドレッドノートは先の小型飛行型ヘキサギア2機との戦闘でビークルモードの機動力にダメージを受けている。ゾアテックスモードの脚で退避するくらいならば、攻撃を継続した方がまだ生き残る目があるだろう。
その時、付近の空を飛行中の編隊から通信が入った。

「どうした? えらく気が立っているじゃないか」

声の主は「ネーター」、空戦型ヘキサギア「スピキュール」のガバナーだ。
編隊には他に「アサルトフライヤー」と「ブロックハウンド」もいる。橋上の攻撃を支援するために上空待機していた部隊から分離して降下してきていた。

「知っての通り戦況は更新された。作戦は次の段階に進む」

グライフが動き出し、この火点へと向かってきている。こうなってはもはやヴァリアントフォースの第4ゲートブリッジでの攻勢は不発に終わったと認めざるを得ない。

「……了解した。ならば、ここも引き払う他あるまい。掩護を頼めるか」

 


 

フリットから敵の砲陣地の偵察の指令書を受け取った「ジェイミー・コナー」は愛機「シャドウ・インパルス」の操縦席上で友軍が集結するのを待っていた。

「もー早く来てよ。敵さんどんどん増えてるよ……」

ジェイミー・コナーはドレッドノートとメイルクラッシャーの正確な位置を告げる戦域レポートに新たな観測情報を追記してゆく。
件の2機は目下のところレイブレード・グライフの接近を警戒しているらしく、平原の端に身を伏せて様子を窺うジェイミーはまだ見つかっていない。だが新たに飛来した飛行型ヘキサギアの編隊は当然周囲の地表面の走査も行うだろう。
こちらの存在が露見するのは時間の問題だ。
レイブレード・グライフが此処へ来るのであれば、この程度の戦力差はどうとでも覆す事が可能だっただろう。しかしグライフは来ない。一通りトランスポーター周辺を制圧した後は第4ゲートブリッジとは距離を取り、多数の敵ヘキサギアを誘導するという連絡を受けている。
どちらにせよ、規格外兵器の近くに寄りたいか?と問われれば、答えは「ノー」だった。

『ジミコ。“王子様”の到着です』

ジミコというのはジェイミー・コナーの愛称である。本人は古い東洋の言葉で「地味な子」を意味するこの渾名が好きではなかったのだが、なぜかKARMA「クラーラ」もこの呼称で認識してしまっていた。

「ジミコっていうな。……で誰?」

モニターに映し出された電子標識は「レイブレード・ブレイズインパルス」。
レイブレード・インパルスをベースに飛行機能を追加した機体らしい。

「げ。こっちも“レイブレード”って……本物かな?とりあえずパンチ力もありそうだし、あそこのでかい奴らはこの人にお願いするとして、……私たちだけで上にいる三機を相手にするって事?」

『増援はもう一機いますよ』

「へ?」

落ち着いた女の声で通信が入る。

「……レイブレード・グライフからの依頼で来たのだけど、連携は可能かしら?」
「大歓迎です~! 友軍は多いほどいいので!」

安心しきったジェイミーの声に、通信相手は驚いた様子だった。

 

『若い女か……』

インパルス・レイフ」のKARMA「シフ」は、君と同じだなとでも言いたそうな口調だった。

「OK、それじゃあ状況を共有してもらえるかしら。こちらは強行偵察型で、武装は長射程の狙撃がメイン。第三世代だけど残念ながら格闘は専門外よ」
「え! 私たちも偵察特化型です! 一応インパルス型ですけど必殺武器とかは特にないです……」
「……必殺武器?」

この女とはノリが合わない気がする。

「まぁいいわ。敵は陸戦型2、飛行型3ね。私はヘルガ、相棒はシフ。宜しく」
「はい! 私たちはジェイミーとクラーラ。よろしく!」
「当面の目標はトランスポーター離脱の為の時間稼ぎと、あの砲撃型の無力化ね」

「お嬢さん方。こちらは準備OKだ。そろそろ良いかな?」

レイブレード・ブレイズ(RB)インパルスのガバナー「レイジ・ナイアード」の声が二人のコンバットヘルム内に響く。

「了解」
「はーい!」

レイジに対して二人からの返事は対照的だった。

「パンドラ、我らは最優先で敵の長距離砲を潰す。あれさえ抑えられれば第4ゲートブリッジ周辺はかなり安全になる。空戦型は足止めだけでもいい」

『我らの知恵と勇気、絆があれば斬れぬものは無い。存分にいこうぞ!』

伏せていた身を起こし、駆け出すRBインパルス。
レイブレード・インパルスをベースに空中機動の為の変形機構を組み込んだ理論検証機は、速度を増すにつれて足が地を離れ、エアマニューバスラスターから噴射する青い励起光の軌跡を残しながらながら地表すれすれを翔け抜ける。
静寂破る派手な突撃は上空で哨戒飛行をしていた編隊の目を引き付け、うち2機が対処に動き出す。

 


 

ごく低空を這うように飛ぶリバティー・アライアンスのヘキサギアが、メイルクラッシャーのプラズマキャノンによる迎撃を踊る様に回避しつつドレッドノートへと向かっている。

「何だ、連中もう来やがったのか?」

最初に接触したのは飛行型ヘキサギア「アサルトフライヤー」。攻撃能力こそ高くはないが飛行能力と速度に優れており、本来は編隊運用で本領を発揮する機体だ。
アサルトフライヤーがマルチミサイルを発射すると、散らばった複数の弾頭が細かく軌道修正しつつ目標目掛けて収束するように飛翔を始める。
同時に、本体はRBインパルスの回避運動を予測して先回りするよう占位し、マルチプルガンの照準をそろそろと動かしていく。

「忍法、ミサイル分身……って、あれ!?」

だが追い込むはずの目標は予想に反して一際激しい励起光と共にさらに増速する。一気に包囲の中心を抜かれたミサイルが地形を躱しきれずに激突し次々と爆発する。
飛行型ヘキサギアに搭乗する者から見れば、その低高度と速度はもはや狂気の沙汰である。

 


 

アサルトフライヤーに狙われるRBインパルスを見て、シャドウ・インパルスが背部に搭載した試製12式甲型重機関砲の砲身を空へと向け、銃口に炎の華を咲かせる。

「掩護します! このまま、進んで!」

対空砲の炸裂が空に並ぶ。

 


 

「やはり他にも居たか……」

RBインパルスに大きく引き離されたアサルトフライヤーはシャドウ・インパルスの砲火を避けるために、急激な旋回と共に降下、地表付近で機体を立て直すと一気にシャドウ・インパルスの火点へと突進する。

「目障りなんだよ!」

柔軟な翼を活かし、木立を縫うように飛行するアサルトフライヤーだったが、すでにディセプション・リピーターを起動したシャドウ・インパルスを捉える事は不可能だった。

「畜生! ニンジャかよ!!」

 

アサルトフライヤーを突破したRBインパルスを次に迎えたのはブロックハウンド。
速度では及ばないとはいえ、飛行型としては破格の火力が一斉に火を吹いた。
ミニガンから垂れ流される火線と、一発一発が致命的な威力を持つプラズマキャノンの波状攻撃で巧みにルートを遮断していく。

「飛行型。ならばこちらも遠慮なくもてなすとしよう」

仕上げとばかりにマルチミサイルの包囲を射かけられ、ついに減速を余儀なくされるRBインパルス。

 

その瞬間をプラズマキャノンで狙っている機体がいた。
スピキュール。先日の戦闘でハイドストームを処分したヘキサギアである。

「まずは一機……」

だが、トリガーを引く寸前、遥か遠くからの精緻な狙撃がスピキュールのガバナー「ネーター」を襲う。ゾアテックスの危機察知能力によって即座に反応したスピキュールが、重ねるように閉じた翼による防護を試みるが叶わず、すべての翼を貫通し到達した弾丸によってダメージを負ったネーターと共に墜落していった。

 


 

サジタリオmk.3超電磁投射砲。
ブロックバスターに搭載されているスナイパーキャノンと比して更なる単発火力と精度を求めて設計された電磁投射砲だが、小型化の影響から最高出力での連続発射は不可能であるため高い貫通力を誇るハイ・タングステン製のHVAP弾による“一撃必殺”を旨としている。

『まずは一機……』

疎らな木立の森の中、星明りも弱い闇。
黒き賢狼は自らの仕事ぶりに満足すると、アクティブデコイを撒いて次の射点へ悠々と歩を進めた。
木々の間に静かに伏せ、次の標的、チャージしたプラズマキャノンから威嚇するように淡く放電するメイルクラッシャーを照準器に捉える。

 


 

RBインパルスによる突撃とスピキュールを墜とした狙撃の双方を阻止するべく、持てる火力の全てを開放し弾幕と煙幕を展開するメイルクラッシャーは、もはや移動する火山とすら呼べる様相でドレッドノートの後退を掩護し続けていた。

「やつらはもうそこまで来ています! 確認された戦力は飛行型が1、陸戦型がおそらく2。周辺にグライフの姿はありません!」

アサルトフライヤーとブロックハウンドも周囲を警戒しつつRBインパルスへの攻撃を継続しているが、あまりの速度差とフェイントを織り交ぜた機動戦術にその効果は芳しくない。

「どうやらそのようだな。汚染環境センサーも定常値のままだ」

ドレッドノートは移動する脚を止めないまま、狙撃者が潜伏していると思われる彼方の森へと砲口を向ける。
敵の最大戦力であるグライフの襲撃に気を取られていたとはいえ、ここまでの接近を許してしまったのは想定外だった。どのみち、いま目の前を飛び回っている敵は近すぎてドレッドノートの旋回速度が追いつかず近接信管の榴弾でも効果は期待できまい。
ならばそちらは味方に任せ、こちらは狙撃者を森ごと焼き払う事にしよう。
KVに弾種と射撃の指示を与えようとした瞬間、メイルクラッシャーの巨体が大きく傾ぐ。

「クソッ!」
「おい、どうした」
「狙撃です……脚をやられました。私は此処で掩護を継続します。先に脱出を!」

 


 

『黒い御仁よ、助太刀感謝する!』

RBインパルスのKARMA「パンドラ」は短く礼を言うと、メイルクラッシャーの死角へと回り込み瞬時にシステムコンバート、地上戦へと移行する。拘束を解かれた前脚で柔らかく地を掴むと、一呼吸を置いて後脚で大地を蹴りつけドレッドノートへと襲いかかった。ドレッドノートは相手の胴体ほどもある太い脚部を振りあげ先端に備えたパイルを用いて忌々しい獣を振り払おうとするが、運動性があまりにも違い過ぎた。RBインパルスはドレッドノートの上に降り立つと、長い砲身にそっと右前脚で触れる。

「こういう状況ならレイブレードよりも“こっち”だな!」

RBインパルスはグラビティ・コントローラーを最大出力にし、一気に四肢を踏み抜く。弾かれたように飛び上がる反動でアースシェイカーの砲身中央が大きくひずみ、頑強を誇るドレッドノートがたまらず膝をついた。

「これでもう砲撃はできまい!」

RBインパルスは空中で再びシステムコンバートすると、全速でその場を離脱していく。アサルトフライヤーが執拗に追撃を試みるが、もはや後の祭りである。

『レイジ、でしたっけ? 中々やるじゃないですか。後で連絡先を聞いておいたらどうです?』
「いや、確かに私はフリーだけど誰でも良いって訳じゃ……」
『どういう意味ですか? 彼は有能なガバナーだ、という話ですよ?』
「ジミコ! 一機そっちに行ったぞ!」
「……ひゃいぃ!!」

レイジからの通信に、慌てて裏返った声で返事をする。
いつの間にか背後から接近していたブロックハウンドが、偶然発見したシャドウ・インパルスに向けてこれまでの恨みとばかりにマルチロックミサイルを連続で発射した。警報が響く。

「やばい! クラーラ、攪乱とクロー発射。崖を登って避ける!」
『ラジャー』

シャドウ・インパルスはディセプション・リピーターの出力を最大にすると同時に、左わき腹に装備したショッククローを撃ち出す。鋭利な先端が崖面をガッチリ掴むと、独特の巻き取り音を響かせながらその場を離脱した。
一拍置いて飛来したミサイルが何もない地面へ次々と着弾する。その爆煙に紛れるように垂直に近い崖に立ったシャドウ・インパルスが、戦果を確認にやってくるブロックハウンドを待ち構える。

「くそー。ボカスカ撃ってきやがって。クラーラ、あいつが飛んで来たら、3のタイミング合わせて飛びかかるよ!」
『ジミコ、言葉が下品です。カウント入ります。3、2、1』

「うらぁぁぁぁ!」

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