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WORLD ヘキサギアの世界

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EX EPISODE MISSION02
[魔獣追討]
Chapter: 20 黒い獣の戦い

ジェイミー達の会話はヘルガやレイジにも筒抜けだった。

「あっちは何だか楽しそうね」
『その様だな……隠密機で正面からの格闘とは、愚かな……』

あちらのKARMAはユーモアがあるのに、シフは相変わらずクールね。
ヘルガは声に出さずに呟いた。

「さて、それじゃあ私たちはあちらに参加しますか…」

ヘルガたちから見渡せる草原のように開けた一帯では、「RBインパルス」が追随する「アサルトフライヤー」の攻撃を捌きながら、擱座してなお火力を吐き続ける「メイルクラッシャー」の無力化を図っている。そしてそのさらに向こうでは「ドレッドノート」が今まさに歩み去らんとしていた。

 

「いや……お前たちには俺とコイツの相手をしてもらう」

背後からの予期せぬ声に思わず背筋が凍る。

「シフ!」

言葉を待たず背後に向けて前脚のハイディングブレードを斬り払う。
それは音もなく後方に跳ぶと、ゆっくりとした動作で再びヘルガへと顔を巡らせた。
姿を見せたのは、ヘルガとシフがいつかの夜に仕留め損ねた黒い獣だった。

「コイツは「スラストハウンド」。さあ、早く始めよう」

背部に背負ったマシンガンの安全装置が外れる乾いた金属音が響く。

『この我がここまで接近を許すとは……』

インパルス・レイフ」はこの一帯に潜伏を始めて以降ほぼ常時、ホログラフィックプロジェクターを使って機体を隠蔽していた。この敵は一体どのようにしてヘルガ達を見つけ出したのか……。

「誰かと思ったら……白いロード・インパルスと闘ってた人ですか。こんなところまで追って来るだなんて、私達に賞金でも掛かっているんですか?」

ヘルガが話しかける。絶対の信頼を置いていたインパルス・レイフのステルス性能、そしてシフが裏をかかれた動揺を悟られてはならない。少しでも話を引き延ばし、情報を引き出す必要がある。

「別に……、ただの暇潰しだ」

スラストハウンドに乗るガバナーは淡々と答えた。

「暇潰し……ですか、その割には情熱的なアプローチですね」

ヴァリアントフォース所属を示す電子標識がない。しかしガバナーが身に纏っているのはイグナイト型だ。パラポーンなのか?
相手の意図が読めない。言葉通り意味など無いのかもしれないが、それはこの相手が戦場では最も厄介な手合いである事を意味する。

「別に相手がお前である必要などなにもない。ただの暇潰し。集まって面白そうな戦争をしているから俺も参加した。何かおかしな所があるか?」
『不可解な奴だ』

シフの言葉を聞いてもスラストハウンドのKARMAは何も言葉を発さない。

「メデューサ!」

ヘルガは一切の予備動作も無く試験装備“メデューサの目”を相手に指向した。
本来はECM兵装である〈メデューサ戦術電子戦ポッド〉の出力を一時的に上昇、指向性エネルギー兵器として放出し、敵の動きを鈍らせる。……はずだった。
攻撃を受けたスラストハウンドは一瞬怯んだかのように見えたが、気が付いた時には仕掛けたハズのインパルス・レイフの方が組み伏せられていた。

『せっかくのヘキサギア同士の戦いだぞ? こんなつまらないモノを使ってどうする』

全く効いていない?

「こいつ……耐えきったみたいね」

“メデューサの目”を食らっても少し痺れたくらいにしか感じていない。俄かには信じがたいことだが、戦闘中に損傷部位を切り離し、シームレスに回路を再構築したとしか考えられない。やはり電子戦の分野で情報体より優位に立つのは難しいということか。
焦りを覚えるヘルガを他所に、早々に正面戦闘を避けられないと悟ったシフはスラストハウンドを蹴り飛ばす。自らのホログラフィックプロジェクターやディセプション・リピーターも無効化してしまうことを分かった上でメデューサの目を使用した。その結果がこのざまだ。

『ヘルガ。この男は戦争がしたいのではない。我等と闘争がしたいと、そう言っている』
「KARMAの方が人間味あっていいねぇ。その通りだ。さぁやろうぜ……」

 

インパルス・レイフがスラストハウンドに先行するように森を駆ける。
スラストハウンドのマシンガンの光が木々の間に瞬き、インパルス・レイフはマニピュレイト・テイルを使って〈ツヴァイヘンダー〉対物爆薬を投擲する。
スラストハウンドの後方で爆発するツヴァイヘンダーが夜闇の薄れ始めた森を昼間の様に煌々と照らす。元々格闘戦などほとんど想定していないインパルス・レイフがこの距離で使えそうな武装といえばハイディングブレードくらいのものだ。まして“メデューサの目”の使用によって機体に残るエネルギー量も大幅に消耗している。ただでさえ電子戦機はエネルギー消費が多いというのに。
ヘルガはグライフの情報を持ち帰るという本来の任務は果たせないかもしれないと、覚悟を決め始めていた。

『気乗りしないが……まだ打つ手は有る』
「何よ! まだ何かあったっけ!?」
『外せ……すべてを』

シフの提案は電磁投射砲と電子戦装備を投棄して機体の軽量化を行い、併せてシフに課せられているリミッターを解除、抑制されていた獣性を解放しインパルス型本来の運動性能を取り戻す。さらにレイブレード・インパルスをベースとするこの機体の能力「共振励起」を使うというものだった。

『我が肚は決まった。あとは貴様次第だ』
「……わかったわ、シフ。ハイディングブレードを除く全装備をパージ! ガバナー権限でリミッターを解除します! あとは貴方の好きなようにやりなさい」

黒い賢狼はどこか懐かしそうな、嬉しそうな動きで応じた。
リンケージが解除され、重い音を立てて次々と落ちていく機材。
そして、一まわり引き締まった賢狼の影から立ち昇る静かな熱気。
ヘキサグラムの出力を爆発的に高め、驚異的な力を得る代償に一定時間経過後には全てのヘキサグラムが基底状態に陥るという諸刃の剣、共振励起。インパルス・レイフを受領した時には、実際に使うことになるとは思ってもみなかった。

 

全身が青白い励起光に包まれると“解き放たれた賢狼”は“退屈に飽いた狂人”へ、燃える目を向けた。

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