Loading...
DataAccess ...

WORLD ヘキサギアの世界

SHARE

EX EPISODE MISSION02
[魔獣追討]
Chapter: 15 邂逅

「くそっ! どうなっている」

ヴァリアントフォースのガバナー「コートニトル」は、廃棄されて久しいアナデン旧市街を異次元の機動で駆け抜ける白いヘキサギアを睨みつける。
リバティー・アライアンスの“白き獣”「レイブレード・インパルス」。甚大な汚染、そしてヘキサグラムの物理的な崩壊とを引き換えに全てを両断する規格外兵器「レイブレード」を搭載した強襲用高速戦闘ヘキサギア。作り出したアースクライン・バイオメカニクスですら満足に扱えるガバナーは殆どいないという。

並の戦場では出会うこともない機体が何故こんなところに……
そしてその背に騎乗するガバナーもまた一般のデータベースにはないタイプだった。いや、一つだけ思い当たる節がある。つい最近、自分と同じイグナイトである「ゴーマーパイル」が残した戦闘ログに現れた存在。ヴァリアントフォースが誇る重量級の第三世代ヘキサギア「デモリッション・ブルート」と互角以上のパワーを誇る謎のガバナー。

“結晶炉の獣人”

こいつがそうだと言うのか……? 無残に鉄骨を晒した古い建造物の上、今しがた破壊したばかりと思しき残骸を弄びつつ周囲を見下ろすように佇む白き獣から目を離せずにいる間にも、各所の味方から悲鳴にも似た通信が飛び交う。

「また通信塔が破壊されました。これで4基目です! まるで場所が分かっているみたいだ」
「残る資材の退避を優先しろ。施設は再建できる!」
「北の隧道で作業中の部隊から援護要請! 動かせる戦力は……くそっ!」

アナデンを無人・自動化し、MSGの管理下に置くための施策があちこちで妨害されている。
こちらを睥睨するレイブレード・インパルスのフロントスキャナーから青白い光がこぼれた。表情など無いはずのヘキサギアが嗤っているように感じられる。コートニトルはその一瞬の心象を振り払うようにスタニングランスを一振りすると、愛機へと檄を飛ばす。

「どのみち……斬って捨てるのみ! 征くぞ、アヴァラーテ!」

最後の一声は短距離通信だけでなく発声器にも乗って迸った。
呼応した「ボルト・アヴァラーテ」がシステムコンバートし、最も得意とする格闘戦の構えに入る。

『リンケージ解除。ゾアテックスモード起動。戦闘行動を開始します』

 


 

「あ、あんなこと言ってますけど……ゲドさん……?」

外観こそ勇壮なアーマータイプに身を包み、ゾアントロプスフリークとなった「ロブ」が、誰にも聞かれないよう不安げな小声で乗機へと話しかける。

『情けない声を出すな……今の貴様は我が盟主の影なのだぞ。ただ堂々としておればよい』

レイブレード・インパルスのKARMA「ゲド」は、ただ落ちないように掴まっていればよい、とだけ言う。だがロブにはそれですら一大事だ。このゲドというKARMAは高い場所ばかりを跳躍疾走しながら急角度の反転を繰り返す上、敵の攻撃に対しては最小限の回避しかしないものだから、乗っているだけでもとても怖いのだ。
派手に暴れ、戦力を分散させる。

あの男、ゾアントロプスの指示は、ヴァリアントフォースに陽動を仕掛け、その戦力をロブとゲドで誘引することだった。だがそれで一体何をしたいのかはロブにはさっぱりわからなかったし、興味も持てない。今の彼を動かしているのはただ、この状況を生き残ることさえできれば自分にも成り上がりのチャンスが巡ってくるかもしれない、という空疎な野心のみであった。
よ、よーし、やってやる。ここで一発決めてやる。

「お、お前ごときが、この俺の前に立って生きて帰れると思うなよ!?」

ロブの渾身の決め台詞だった。

……敵は増えつつある。この莫迦はまだ気付いておらんようだが。
距離を取りゆっくりと旋回する「多目的輸送機ガルガンチュア」の側面ハッチが開き、横に並んだパラポーン・センチネルが銃を構えてロブを狙っている。揺れ動く機上からでも精緻な狙撃で標的を射貫くことができる精鋭部隊。その筒先が一斉に火を吹いた。

ロブを乗せたレイブレード・インパルスがわずかに身を伏せると数発の銃弾がロブを掠め去る。
そのままの勢いで屋根の縁を蹴ろうとしたところで、足元に幾つもの弾着が爆ぜる。

「え、何、うぇっ!?」

後方上空からは翼竜のような形態の空戦型ヘキサギアが音もなく滑空しつつ迫っていた。

 


 

「目標を射程に捉えた。いいぞ、そのまま釘付けにしておけ!」
低空から進入する「イレイザーエッジ」の腹部でガバナー「ラッセル・バードランド」が叫ぶ。
視界端に表示した望遠映像の中で白い獣型の機体がちらりとこちらを向いた気がした。
「チッ……勘のいい奴だ。やるぞ」
イレイザーエッジが試作電子戦用誘導弾「ゲイボルグ」を発射する。
昨今ほとんど手に入らなくなった本格的な空対地誘導ミサイルを改造し、VICブレードを装着した虎の子の試作品だ。相応に高価な装備だが、奢ってやるのはあのレイブレード・インパルス。掛け値なしの“絶世の美女”相手ならば安いものだ。

 


 

『ほう、誘導弾による対地攻撃とは小賢しい。だがその弾頭は……面白いな』
翼を翻して離脱していく空戦型ヘキサギアから視線を移し、飛来する空対地ミサイルに集中する。
ゲドはレイブレードの使用許可をガバナーに要求した。いかに紛い物とはいえ、今この戦場ではゲドのガバナーはロブだ。ガバナーの許可が無い限り、規格外兵器を使用することはできない。
ゲイボルグが迫る。

「ゲド……おまえに任せた!」

そう言い放つと、ロブはレイブレード・インパルスの操縦桿にしがみついた。

『それでよい』

ゲドは躱そうともしない。そのまま身じろぎもせず、着弾の刹那にレイブレードを極短時間発振させた。青白く眩い励起光が一瞬だけ輝くとすでにそこには何も残されておらず、ただ崩壊したエレメントの残滓が周囲に薄く舞っている。

「き、斬ったのか? いまの……。凄ぇ!」

ゲドは敵の攻撃を最小の動作で無効化した。下手に躱せば今度はガルガンチュアの射手に狙い撃ちにされていただろう。
プラズマ化した大気中を、気化し損ねた金属の残片がぱらぱらと降ってくる。
汚染環境センサーはわずかに警告を発したものの、すぐに平常値付近にまで低下した。

「これが規格外兵器か! なんだよ、大した汚染じゃないな!」

はしゃぐロブをよそに、ゲドは周囲の状況を注意深く観察し評価を下していく。
陽動・攪乱としてはこの程度か……。この地に無視できぬ戦力が活動しているとヴァリアントフォースに印象付けられればそれで充分だ。より多くの敵をここに引き寄せることができれば我が盟主も動きやすかろう。

しかし……このロブという男、心得違いも甚だしい。我が“レイブレード”は軽々に抜いてよい剣ではないのだ。その力がもたらす代償については当然、彼奴らも心得ていよう。使いどころを誤ればあっという間に力尽き、野に屍を晒すこととなる。
まぁいい、命のある間にせいぜい学んでもらうとしよう。
我が背にあって生き残ることができるのであれば、の話だが。

「……そういや、ここら一帯を支配してるアナデンって連中はヘテロドックスなんだろ? なんだってこんなにヴァリアントフォースがいるんだ?」
『先ほどから破壊して回っている施設、あれらの搬入と設置に来たのであろう』
「……あれってMSGのもんだったのか。ってか俺たち、そんなことしてたのかよ……?」

ここまでは我らが一方的に襲撃するのみであった。この先、敵は逆襲に転じるであろう。
対して、我らにとってはそろそろ潮時でもある。
上空を飛び去るイレイザーエッジを見やる。旋回に移るタイミングを見逃してはならない。
そしてガルガンチュアの位置、今も地上を移動している陸戦型ヘキサギアと歩兵部隊。

『……振り落とされるな。拾いに戻るのは面倒だ』

短く告げるや、ゲドは建造物の上から一気に駆け下りた。
細い通りを選んで空からの攻撃を遮り、退路を断とうと立ちはだかるボルト・アヴァラーテを正面に捉える。

「さぁ~て……このまま行くぜ、ヴァリアントフォース! 俺たちについて来られるか?」

先ほどまでとは態度を一変させたロブが、熱に浮かされたような表情で居並ぶ敵に向け啖呵を切る。生まれて初めて体感する全能感に、頭の芯から酔い痴れていた。

WORLD 一覧へ戻る