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WORLD ヘキサギアの世界

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EX EPISODE MISSION01
[熱砂の暴君]
第一章

「こちらヘンリー・グレック中尉。放棄された地下空洞内で例のデカブツを見つけた。恐らく間違いない。まだ未完成のようだが、こんなモノは放置しておくと後々厄介だ。やはりこの場での破壊を具申する」

「司令部よりヘンリー中尉。その機体はヴァリアントフォースの実験機である。我々にとって潜在的脅威である事は間違いないが、そいつを手に入れられれば状況は大きく変わる。何とか持ち帰ってほしい」

「了解……回収を試みる。交信終了。――KARMA、聞いていた通りだ。こいつにアクセスして起動できないか? 持ち帰るにしてもキャリアーまでは自走してもらわんとどうにもならん」

ヘンリーは愛機ロード・インパルスのKARMAへと話しかけた。埃っぽい暗闇の中に、黒い機体は溶け込んでいる。

〈我々の上司はいつも無茶を言いますね。いい加減転職を考えたほうがよろしいのでは?〉

「そう言うな。リバティー・アライアンスを抜けてもヘテロドックスの連中と同じ、俺たちにできることは傭兵くらいなもんだ。ESTから来る仕事の中にはリバティー・アライアンスからの依頼も多い。結局やることは同じだ。機体へのアクセスはまだか?」

〈対象機体から基本仕様書をダウンロード中。残り15%…完了。仕様を検索、表示します〉

「……なんだこりゃ。インペリアルロアーだと? やつらゾアテックスをここまで……」

 

WARNING―――――
目の前が一瞬暗くなり、工廠内の警告灯が一斉に点灯した。

 

〈……私以外のAIが、ガ……ガガガ……〉

「おいどうした!」

急にパフォーマンスの落ちたKARMAがアクセスを遮断し、数秒の間を置いて復帰する。

〈ヘンリー、ここから脱出します〉

反射的に銃を構え後ろを向く。
拘束具を引き千切る様々な破壊音が重なる。顎部のグラインダーがゆっくりと回転を始め、唸り声のような音を上げる。

 

暴竜―――――
無機質な4つの赤いセンサーがヘンリーの姿を捉えた。

 

「目が合っちまった……おいKARMA」

〈今そちらに。乗ってください〉

 

 

ビークルモードからゾアテックスモードへとシステムコンバートしたロード・インパルスはヘンリーを乗せて工廠内の搬送路を疾走している。

「ヘンリー中尉より司令部、応答してくれ!あれが動き出した。持ち帰るのはもう無理だ!」

応答はなく、聞こえるのは雑音のみ――アーマータイプの通信機が使えない。

「クソッ! KARMA、この情報だけでも何としてでも本隊に!」

搬送路の側壁を破壊して暴竜が背後に迫り、蹴散らされた機材や建材の破片が次々と降り注ぐ。

〈KARMAのネットワーク機能復旧。獲得情報を全KARMAと共有開始〉

「いいぞ。後は脱出するだけだ」

〈出口地点まであと200メートル。小隊間通信に応答がありません〉

 

外へ出たヘンリーたちが最初に目にしたのは文字通り全滅した味方と、その残骸を取り囲むヴァリアントフォースのヘキサギア部隊だった。
背後には巨大な暴竜。目前にはヴァリアントフォース。

「やるしかない。暴れるぞ」

〈あなたの命、お預かりします〉

 

 

 

 

 

「こちらテトラローター。侵入者を無力化、生存者一名の身柄を拘束しました。こちらはフレイムビネガロンおよびハイドストーム・イールが一部損傷です」

「オールイン・ジ・アースは建造途中の状態で緊急起動した。背部バランサー系統が同期していない以外は概ね許容値だが、長距離の自走までは難しいだろう。リバティー・アライアンスが来るのも時間の問題とはいえ、現地での再調整が必要だ」

「了解した。増援としてシュタイン・カンプネイル・ワイズマンがまもなく到着する予定だ。護衛部隊としては足りないが、しばらくそれで持ち堪えてくれ」

――まったく、面倒なものを目覚めさせてくれたな……

 

 

 

こちらはリバティー・アライアンス本部。緊急の要件につき、簡潔に話す。
諸君らの力を借りたい。我々はいま非常に追い込まれた状況にある。
先日発見された超大型ヘキサギア

 

『ALL IN THE EARTH』

 

沈黙状態にあったあの機体が数時間前から活動を開始した。自走によりこの地区より移動し、MSG管理区域へ向かう可能性があるとのことだ。
諸君らの任務はこの機体の奪取、それが不可能なら破壊することである。
この数日で、あれはどうやらMSGの連中が我々のゾアテックス技術を研究するために組み上げた技術実証機であるらしいことが分かってきた。
獣性付与発現の上限について探ろうとしたのだな。実験機ではあるものの多数の兵装を装備しており、その戦闘能力は相当に高いと推測される。
また、MSGヴァリアントフォースもこの地区へ部隊を展開させつつあり、こちらも警戒を要する。
知ってのとおり数で劣る我々だが、これを放っておくわけにはいかん。
既に我々の特殊部隊が回収を試みたが、通信は途絶し隊員の生死は不明。

 

あの辺りは砂漠地帯に属する荒れ地で、多数のバラック小屋が集まった街区のようなところだ。背の高い建物はほとんどないが道は狭く込み入っている。
ヘキサギアの構成を最適化するならこれらのことを念頭に置くように。
詳細な内容については別添の資料を確認のこと。

 

かなり激しい戦闘になるだろう。一人でも多くの助けが必要だ。
よろしく頼む。

 

 

ブリーフィングモニターには対象地区の地理図像が映し出され、中央に巨大な2足歩行型ヘキサギア、その周囲に複数の戦闘用ヘキサギアの存在が示されている。

「この情報は現地の偵察部隊からもたらされたものだ。現在の敵戦力は更に増えていると思われる」

 

「今回はESTを通じてヘテロドックスの連中にも召集をかけた。本作戦の概要と配属部隊は追って伝達する。到着までに各自頭に入れておけ」

リバティー・アライアンスの集結地点ではヘテロドックスを含めた部隊が編制されつつあった。

「こちらブロックギアンチュラ。俺の相手はあのサソリ野郎でいいのかい?」

ギアテック・ナウマンダー。先に言っておく。小回りは利かないが突破力には自信がある。パワー勝負なら任せてくれ」

クリムゾン・クロー。ガバナーのレッドメアだ」

グルンシルト、デカブツの足をぶち抜いてさっさと帰らせてもらう」

「グレンリベット、相棒のマルグリッド9だ。俺たちはやつの足を止める」

「ヘテロドックスとは言えパラポーンまで混ざってやがる。まさに急造部隊だな。準備はできたか。行くぞ!」

 

「司令部より各部隊、標的の状況について報告せよ」

「こちらソリッド・インパルス、ガバナー・フェイだ。標的は毎時8kmで移動を継続中。進路に変化なし、MSGの管理区域に向かっている。相変わらず周囲をアセンブラ・ポリスツが飛び交っている。まだ何か作業を続けているようだ。――待て、いまアセンブラ・ポリスツが一斉に標的から離れた。標的の動きが活発化している。増援はまだなのか?」

「ヘテロドックスを含めた攻撃部隊が展開中だ。お前も備えて……」

〈フェイ。敵の照準を検知〉

ソリッド・インパルスのKARMA『グレイス』が危険を察知し、ロード・インパルス譲りの運動性で跳躍した。遅れてチェーンガンの掃射がソリッド・インパルスのいた位置を薙ぎ払う。AAサウリアがバラック小屋の陰を伝ってフェイに迫っていた。

「敵に捕捉された! 戦闘用ヘキサギア一体と接敵、交戦を開始する!」

 

〈オールイン・ジ・アース、戦闘行動を開始〉

機体各部のセンサーが周辺情報を収集、更新する。
巨大な脚が持ち上げられ、一歩進むごとに大地を揺るがす。
その眼には無数のヘキサギアが検知されていた。

 

「予想より早く動き出したか。現時刻を以て攻撃を開始する。各部隊、展開状況を再度報告せよ」

「標的はゾアテックスの実験機らしい。どれほどの獣性を持っているかわからん。近距離での戦闘は避け、まずは遠距離からの砲撃で崩せ。あの体躯ではバランサー系統が損傷すれば容易に転倒するだろう」

フェイディ、直ちに砲撃を開始」

「ROG! 砲撃を開始する」

155㎜自走榴弾砲フェイディの砲手は照準を合わせる。ずらりと並ぶ部隊の砲7門もその動きに追随した。

「発射! 次弾装填!」

特殊誘導弾の有効射程は40,000m。試射なしでもこの距離なら一方的に砲撃ができる。

「各部隊へ、これより一分間の効力射を開始する。弾着まで40秒」

 

降り注ぐ榴弾がバラック小屋を吹き飛ばし、標的周辺に続々と落ちて、護衛部隊の動きも浮足立ったかに見えた。
標的の足元で炸裂した爆轟が巨体を揺らす。歩行が崩れてたじろぐ。

神雷カノーネン・ブリッツブロックランナー、グルンシルト! 射撃開始!」

オールイン・ジ・アースを直接視認できる位置に砲を構えた4機のヘキサギアが一斉に砲門を開く。
次々と着弾する。爆煙が晴れる。
多少の損傷が確認されるも、内部まで侵徹するには至っていない。

「あの装甲、バルクアームどころじゃないぞ!」

何事もなかったように歩みを再開するオールイン・ジ・アース。
突然動きが止まり、各部のスラスターの点火がちらついて見えた。

「まずい!散れ!」

オールイン・ジ・アースは咆哮とともに空中に躍り出た。バラック小屋や廃墟同然の建物を蹴散らしながら何度も跳躍を繰り返し、4機が砲を構える一帯へ殴り込む。

「ブロックランナー、足をやられちまった。神雷、そちらはどうか?」

「こちら神雷、損傷軽微。旋回して砲撃を続ける」

「弾種そのまま、仰角零距離、発射!」

オールイン・ジ・アースの強靭な装甲に砲弾を浴びせる。

「至近距離からの砲撃は有効っ……っ!」

オールイン・ジ・アースのブランディッシュハンマーが神雷を真横から直撃した。
大きく弾き飛ばされた神雷は胴体をへし折られ機能を停止した。

「くそっ! 割にあわねぇぞ!」

距離を取りながら狙撃を繰り返すグルンシルトとカノーネンブリッツ。

「足を狙って動きを止めます!」

「馬鹿野郎! 敵はこいつだけじゃ無えんだ、即刻離脱するぞ!」

「逃がさねぇぜ……っと」

接近してまわり込んでいたボルトレックス・スティンガーがグルンシルトの退路を塞ぐ。
リバティー・アライアンス先行攻撃部隊はヴァリアントフォースに取り囲まれた。

 

「初期攻撃は効果を認めず。フェイディ部隊も一時撤退、再展開の指示を乞う」

「間をあけず続けて仕掛けるぞ。先ほどの戦闘データを元に近接戦闘で対処する。トランプルフォートレス、ギアテック・ナウマンダー、エクスバルク・アサルトで奴の動きを封じる。動きを止めたところで包囲し直接攻撃しろ」

「ネイル・ワイズマンはアクゲキベオウルフ二号機が対応、ボルトレックス・スティンガーにはブロックギアンチュラで当たり、これらを足止めしろ。ナイトストーカーは援護を」

「先行攻撃部隊は復旧に努めつつ状況監視を」

「それでは、始めてくれ」

 

 

「こちらはバレットデリバリー。先に申し上げておきますが弊社は戦力の拠出は致しておりません。しかしながら物資の補給、配送などのご用命でしたら何なりとお任せください」

第903狙撃分隊ホマーコフだ。我々の補給と撤退手段の検討を頼みたい」

「お安い御用です。決済はいかがなさいますか?」

「リバティー・アライアンスのクレジットだ。早急に頼む」

「即時申し受け致します。ご利用有難うございました」

「――さて、大物の相手は他の奴らに任せて俺たちは裏方だ。各自やることは分かってるな?」

「いつもの仕掛けをしておくんでしょ」

「そうだ。敵の中にエクスパンダーを見かけたという話もある。充分注意してくれ」

 

最初に接敵したのはベオウルフだった。

「さあ来い、お前の相手はこっちだ……」

オールイン・ジ・アース右前方を進むネイル・ワイズマンに接近し、オールイン・ジ・アースを窺う素振りを見せて護衛位置から引き剥がす。アクゲキの潜伏する地点まで移動すると、立ち上がったアクゲキが猛然とこれに掴みかかった。

「第二世代機の機体重量を舐めるなよ!」

「センチネルに気を付けろ。カバーする」

その反対側でボルトレックス・スティンガーはブロックギアンチュラからの牽制射撃を躱しつつ、ネイル・ワイズマンをカバーできる位置に移動しで警戒を続けていたが、ナイトストーカーが急降下してくるのを見て動きだした。

「やっと出てきたわね!」

「ここで奴を釘付けに出来れば!」

ブロックギアンチュラは前進してきたボルトレックス・スティンガーに続けざまの攻撃を送りこみ、ナイトストーカーも上空から足止めを試みる。

オールイン・ジ・アースもこの動きに呼応して、近接防御火器を盛んに撃ちながら進路を変えた。そこに、トランプルフォートレス、ギアテック・ナウマンダー、エクスバルク・アサルトが三方向から接近する。

「マル、一気に仕掛けるぞ!」

〈了解しました。オーバードブースター点火します〉

彼我の距離が一気に縮まる。オールイン・ジ・アースの砲火を避けながら地上に降り立ち、足元をローラーダッシュで駈け抜ける。

〈ライオットコライダー起動〉

「腹下が……がら空きだぜっ!」

高圧放電が空中を迸ってオールイン・ジ・アースに刺さり、全身に配置された補助AIと人工筋肉に負荷を掛ける。機体が痙攣し、一時的に動きが止める。

「次は俺たちの出番だ!」

オールイン・ジ・アースに左右から同時突撃を掛けるトランプルフォートレスとギアテック・ナウマンダー。大質量の衝突によって機体が様々な異音を発する。更に重ねて、格闘戦を得意とするゾアテックスの部隊がオールイン・ジ・アースの躯体に次々と取りつき、装甲を引き剥がそうとする。

赤い四眼が激しく明滅し巨大な首を大きく仰け反らせた。

 

ネイル・ワイズマンのガバナーが何かを叫ぶ。その音声までがかき消される。

 

オールイン・ジ・アースは迸る怒りのような咆哮を上げた。

――インペリアルロアー。

ゾアテックスヘキサギアに対して短時間の機能障害を発生させる兵器。敵味方を問わず、半径数100メートル以内にいたゾアテックスヘキサギアが委縮したように硬直してしまう。

ブランディッシュハンマーが悠々と振り回されて、リバティー・アライアンスのヘキサギア部隊を弾き飛ばしていく。

「ははっ……まるで、トルネードみたいだな……くそ」

機械仕掛けの獣だった機体の残骸がばらばらになって飛び散り、バラック小屋の屋根に落下した。

オールイン・ジ・アースは徐々に動作が緩慢になっていき、休眠するように静止した。

 

 

――熱砂の暴君は、ここでしばしの眠りについた。

 

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